観客席から
麻人と悠は、試合前の恭一を遠目に見たあと、会場の廊下を歩いてた。
「お兄ちゃん。恭一様、すごく気合入ってたね」
「そうだよね。戦国武将みたいだった。怖いよ」
麻人が、ふっと笑いながら言った。
「でも、とても凛々しくてカッコ良かったかもね」
「うん。何だか、昔の恭一様を思い出してしまった」
「僕も。懐かしいよ」
麻人も悠も、同じことを感じていた。剣道着が和装のせいかもしれない。前世の勇ましい姿と重なり、何か胸に込み上げるものがあった。
「悠ちゃん!」
後ろから声をかけられ、振り向くと奈穂がいた。麻人と悠と奈穂は、一緒に観客席に行くことにした。
「恭君、どうしてるかな?」
「さっき、チラッと見たんだけど勇ましかった」
「剣道してる恭君、カッコイイもんね」
奈穂と悠が話していると、
「怖い顔してたよ。敵陣に攻め入る武将みたいだったよ」
と麻人は言った。
「分かる。あの顔だけでも相手は恐怖よね。私だったら泣く」
麻人と奈穂は、楽しそうに話している。
「なんだか緊張してきたわ」
「私もです」
奈穂と悠はそわそわしているが、麻人はいつもと変わらない様子だ。
「大丈夫だよ。恭一君は、絶対に勝つよ」
「うん。恭一様は強い」
「そうよ。恭君は強いのよ」
疑いなく自信に満ちた麻人の言葉に、悠と奈穂も同調した。
三人は、席に着き会場を見渡していた。すると後ろから、
「小野田君、悠ちゃん、奈穂ちゃん。来てたのね」
と、後ろから土屋琴子に声をかけられた。振り返ると、高井鈴華と森下蓮の姿もあった。
「結構、広い会場だよな。長月、大丈夫かなぁ。一年だし緊張するよな」
森下蓮が心配していると、麻人がにこにこしながら、
「安心して。さっき、誰より気合入って、貫禄ある恭一君を見たよ」
「そうなんだ。あいつ、度胸あるもんな」
「うん。あの人は、絶対に大丈夫」
「小野田、奥さんみたいだな」
「え……」
森下蓮に、『奥さんみたい』と言われ、麻人は焦ってしまった。横に座っている悠も、目を丸くしている。
「悪い、小野田。面白くない冗談だったな」
「いや、いいんだ」
深い意味がなく言われただけなのに、麻人は少し戸惑ってしまった。と同時に嬉しくも思っていた。恭一の特別な存在に思われているように感じたからだ。今は、友人として側にいる。けれど、恭一にとって唯一の存在でいたいと願っている。
あと数分で試合が始まるアナウンスが流れた。
麻人は、勇敢な恭一の姿を見れる喜びに、気持ちが高揚していた。




