戦いの前に
恭一は、決勝戦が行われる県立西蘭武道館を目の前にしていた。県庁所在地である都市に建ち、かつて全国大会が行われたことがある歴史ある会館である。
恭一の通う県立西蘭高校は中堅の進学校で、部活が盛んである。剣道部と吹奏楽部は全国的に有名である。最近では、公立校では珍しくバスケットボール部も活躍している。
学校近くには神社仏閣が多くあり、観光名所として広く知られている地域だ。
また、高校の歴史は古く、伝統を重んじ少々厳格な校風である。厳しい規律の中でも、地元を誇りに思う真面目な生徒達が多い。
西蘭高校剣道部は、以前は全国大会の常連校であった。昨年は、県大会準決勝で敗れてしまい、近年は全国大会から遠のいている。剣道名門校としての意地があり、この決勝戦は何としても勝ち進みたいところだ。三年生は今年が最後の戦いであり、今年こそはと意気込んでいる。
対戦校は、私立五葉台高校である。五葉台高校は、比較的新しい学校ではあるが、スポーツ推薦があり強者の集まりである。昨年は、全国大会ベスト4まで勝ち進んだ。また、文武両道の進学校でもある。
恭一は、先輩達と会場へ入っていった。受付を済ませ、指定の場所での待機となった。
試合に出場するメンバーは道着に着替え、素振りなど各々がウォーミングアップをしている。恭一もまた、戦いに向け精神を集中していた。剣道は、試合に勝つこと以上に、己に打ち勝つことが重要であると、恭一は自分自身を律していた。一年生でありながら、誰よりも気迫が感じられる。
そんな時だった。部員達が待機している場所から少し離れた辺りから、こちらを見ている人に気付いた。麻人と悠である。邪魔をしてはいけないと思っているのだろうか。二人は、恭一の近くに来ようとしない。恭一も、監督や部員達がいる手前、麻人や悠の側に行くのをためらった。
麻人と悠は、離れた所から笑顔で小さく手を振り、その場を去っていった。
「長月、やっと笑顔になったな。怖い顔してたぞ」
一年上の先輩、城島建吾から言われ、
「すみません」
と言い、恭一は下を向いていた。
「少しは力を抜け。今まで通り、俺達の試合をしよう」
と城島健吾に背中を軽く叩かれ、少し気持ちが落ち着いた。
城島建吾は、中学でも同じ剣道部の先輩だった。一年しか違わないのに、とても頼もしく感じられる。彼もまた、二年生でありながら団体戦に出場する。
そろそろ入場の時間のようだ。監督と三年生と城島建吾に続き、恭一は平常心を保ち進んでいった。




