決勝戦の朝
恭一は、いつものように早朝に起き、神社の掃除をしていた。空はまだ薄暗いが、掃除を進めていくうちに朝日が昇っていき、肌で暖かさを感じるの好きだった。
前世でも早くから起き、朝日を眺める事が好きだったように思う。時代は変わっても、日の光は自分にとって心地良さを与えてくれることに改めて感謝していた。
今日はいつも以上に、日の光を受けたい気分だった。なぜなら、剣道の県大会決勝戦の日だからだ。
普段より掃除を念入りにし、気持ちを引き締めた。
ふと振り返り足元を見ると、ビハクがいた。白い毛が日差しを受けキラキラと輝いている。
「ビハク、なかなか神々しい姿だな」
ビハクは理解しているかどうかは分からないが、得意げな表情をしているように見えた。すると、ビハクは空を見上げた。恭一も、同じ方向を見ると勢いよくカラスが飛んできた。
「希水か。すごいスピードだな」
「恭一。今日は試合だろ。見に行くよ」
「お前も? どうやって?」
「木の上からでも見てる」
「お前は飛べて便利だな」
恭一は、少し笑いながら希水に言った。
恭一に寄り添っているビハクが、心なしか羨ましそうにしているように見える。
「ゴメンな、ビハク。お前は無理だ。頑張ってくるな」
恭一は、ビハクの頭を撫でていた。
「よし、行くか」
恭一は、掃除を終えたので自宅に戻ることにした。
「希水、後でな」
そう言うと、希水は裏山の方へ消えていった。
恭一が朝食をとっていると、スマホにメッセージが届いた。
『恭一君。おはよう。今日は悠と応援に行くよ。悠は今から楽しみにしているよ』
恭一は、笑顔を浮かべていたようだった。
「どうしたの? にっこりして」
母親に言われ、はっとして平静を装った。母親も姉も、今日の決勝戦を見に来るようだった。
「そうそう、奈穂ちゃんと昇子さんも見に来るそうよ」
「昇子おばさんも? 珍しいな」
「そうなのよ。恭君の晴れ舞台だって言ってたけどね」
奈穂が来るのは分かっていたが、まさか奈穂の母親まで来るとは思わなかった。剣道の試合に興味があるのか疑問である。
スマホを見ると、クラスメイトの森下蓮からもメッセージが入っていた。
『頑張れよ。応援に行くからな』
簡単な内容ではあるが嬉しかった。高井鈴華と土屋琴子からも激励のメッセージが順にきた。みんなが応援に来てくれるのは有り難いが、なかなかのプレッシャーである。恭一は、支度をしながら少し緊張してきた。
玄関を出る時、
「いってらっしゃい」
普段通りの明るい声で、母親が送り出してくれた。その時、前世の妻であるアサもいつも明る笑顔で送り出してくれたなと思い出してしまった。どうして思い出したのか分からない。けれど、当たり前のように繰り返し見てきたアサの笑顔は、恭一にとって無くてはならない大切なものだった。
(挿絵は生成AIで制作しました)




