表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/23

麻人の妹

 麻人の妹が、恭一に向かって『京之助殿』と言った。恭一は言葉に詰まったが、

「どうして、その名前を?」

 恐る恐る聞いてみた。


雄吉(ゆうきち)です。お会いできるなんて。嬉しいです」

「雄吉だと……」

 麻人の妹は涙を浮かべている。雄吉とは、前世の恭一の側近だった者である。


「本当に雄吉なのか?」

「はい。間違いありません」

 恭一は、麻人の妹の肩に手を乗せまじまじと少女を見た。


「恭一君。ありがとう。悠は時代劇が好きでさ。良かったね、悠」

 麻人の嬉しそうな顔を見て、恭一は我に返り少女の肩から手を離した。


「キョウノスケとユウキチか。そういう設定なんだ。恭一君って優しいね」

 麻人が、にっこり微笑んでいる。


 恭一は気を取り直し、ビハクのいる茶の間に麻人と悠を案内した。日本家屋の広い畳の部屋に、大きめの掘りごたつテーブルが置かれてある。そして、掛け軸と花が飾られた床の間にビハクが鎮座していた。

「縁起の良い置物のようだな」

 恭一の言葉に、麻人は笑っている。

 

 麻人は、早速ビハクにおやつをあげたり、猫用オモチャで遊んでいる。


 麻人がビハクと戯れている姿を横目に、小さな声で恭一は悠に話しかけた。

「そなたも前世の記憶があるのか?」

「はい。1年前、うっかり階段で滑ってしまい頭を打ったのです。それからです」

「なぜ、俺を京之助だと?」

「それは……」


 麻人の妹の説明によると、数日前から夢に白い猫が出てくるようになったそうだ。そして、恭一がこの神社にいることを伝えてきたという。雄吉は、前世の記憶があることを誰にも言えずにいたそうだ。1人で思い悩み辛かっただろうと恭一は不憫に思った。


「それにしても、京之助殿は相変わらず精悍(せいかん)なお姿」

「お(ぬし)は、えらく可愛らしくなったな」

面目(めんぼく)ない」

 

 2人でコソコソと話していると、

「いつまで時代劇ごっこしてるの?」

 と麻人が呆れたような表情で聞いてきた。


「時代劇ごっこ? 何を」

「やめろ、雄吉」

 恭一は悠をたしなめ、今後は現在の名前で呼び合おうと決めた。


「麻人君、こんにちは? この子は?」

 茶の間に入ってきた彩音に、麻人は妹を紹介している。


「赤だわ。赤色の周りに、ゆらゆらと紫も見える。恭一と同じね」

 悠が、きょとんとした顔をしている。


「恭一様。赤に紫。何でしょうか?」

「気にするな。イメージカラーみたいなものだ」


「恭一様か。家臣みたいね」

と彩音が笑っている。恭一は、あながち間違っていないなと心の中で思った。


 彩音は、大学近くで一人暮らしをしている。明日、そちらへ戻るようだ。今晩は彩音の為にご馳走が用意されるはずだ。麻人と悠も一緒に夕飯を食べていかないかと彩音が誘っている。麻人の母親は看護師をしていて今日は帰りが遅いらしい。

 ということで、今夜はささやかな宴会が始まることになった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ