側にいたいから
麻人は、なぜあんな事を言ってしまったのだろうかと考えていた。恭一と悠に向かい、
『今も昔も、2人でコソコソしてズルい』と……
前世の記憶が戻った時、本当に驚いてしまった。前世では、恭一の妻だったのだから。
確かに、初めて恭一に出会った時、懐かしいような、何か不思議な気持ちになり、自然と涙が出そうになった。
あの時は、白い子猫がカラスに襲われていると思い、どうすべきか途方にくれていた。そんなところに恭一が現れたので、ほっとして涙が出そうになったのだと思っていた。
今にして思えば、やっと巡り合えた嬉しさに、心の記憶が反応したに違いない。
前世での自分は、夫を陰ながら支え、息子と娘に恵まれ幸せだった。夫は無口な人であったが、いつも優しい眼差しで、家族を守ってくれた。不満と言うには忍びないが、夫はいつも従兄の雄吉と一緒に出掛けることが多く、羨ましく思っていた。
あの時代は、男社会であったので仕方がないことだ。妻は家を守り、奥にいるのが当たり前だったのだから。
夫の京之助は、雄吉をいつも側におき、目をかけていた。雄吉もまた、京之助を尊敬し慕っていた。
雄吉は、京之助とアサの子供達を大切にし、子供達も雄吉が大好きだった。
幸せだったのも束の間、夫と息子を早くに病で亡くしてしまった。そんな失意の中、雄吉はずっとアサと娘を見守ってくれた。あの頃、雄吉の存在は大きく支えであった。
そんな雄吉は、今は自分の妹として生まれ変わり、側にいる。今度は、自分が妹の悠を支え、守ってあげなくてはいけないと強く感じている。悠の明るい笑顔をずっと見ていたいし、悠の幸せを心から願っている。
それなのに何故だろう……恭一と悠の親密そうな姿を見ると、少し寂しい気持ちになる。恭一を独占したいと思っている訳ではないのに。
来世では、男同士として生まれ変わり、同じ位置に立ちたいと思っていた。守られるだけでなく、守ってあげたい、彼の助けになりたいと思っていた。願いが叶い、今は同級生として恭一の近くにいる。この、すっきりしない気持ちは、今はこのままにしておこうと思っている。上手く説明できないし、恭一に告げ、引かれて離れていったら元も子もない。
麻人は、川で希水が見付けてくれた翡翠の玉を手の平に乗せ、眺めていた。前世で、夫から贈られた大切な簪の飾りだ。
「お兄ちゃん、入っていい?」
「悠? 入っていいよ」
麻人は、自分の部屋の机の引き出しに翡翠をしまった。
「どうしたの?」
「私、恭一様と親しくしすぎかもしれない」
「え……?」
麻人は驚いてしまった。おそらく、悠は『コソコソしてズルい』という麻人の言葉を気にしているのだろう。
「悠、ゴメンね。違うんだ……自分も仲間に入れてほしかっただけだよ」
「そうなの?」
「悠も恭一君も大好きだからさ。ずっと仲良くしていたいだけだよ」
悠は、麻人の顔をじっと見ながら、いつもの笑顔になった。




