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あの日のカラス

 恭一の部屋の窓ガラスを叩く音がし、恭一は窓を開けた。

「来たな。希水(きすい)

 恭一の後ろには、麻人と悠がいる。カラスは2人の姿を見て喜んでいるのか、翼を広げ背伸びをしたかと思うと、ぴょんぴょん跳ねて部屋に入ってきた。


「希水君なのですか?」

 悠が、半信半疑でカラスを見ながら話しかけた。すると、

「あー! あの時のカラスだ」

 麻人が大きな声をあげた。


「あの時って?」

 恭一が問いかけると、

「ほら、恭一君と初めて出会った日だよ。カラスからビハクを助けたでしょ」

「え? あの時の……」


「希水! ビハクを追いかけまわしてたよね」

 麻人が希水に向かって言った。


「違うよ。遊んでたんだよ。ね?」

 希水がビハクの方を向くと、ビハクはぷいと横を向いた。その姿を見て、麻人と悠が吹き出した。


「可哀そうにね、ビハク」

 麻人がビハクの頭を撫でながら、クスクスと笑っている。悠も、ビハクの背中に手を触れ、笑っている。カラスの姿の希水は、しょんぼりと下を向いてしまった。


「ゴメン、ゴメン。あの時は、てっきりカラスが子猫を襲っていると思ったんだ」

 麻人が、しゃがんで顔を傾け希水に話しかけている。カラスは頭を上げ、

「うん、僕も調子乗って追いかけまわしたかも……」


「今日は、カラスの希水に会えて嬉しいよ」

 麻人は、にこにこ顔で話している。

「前世では、カラスの姿は見せてくれなかったね」

「アサは気付いてなかったけど、たまにこの姿で遠くから見てたんだよ」

「そうなの? 知らなかった」

 麻人は、手を口に当て驚いているが楽しそうだ。恭一と悠はビハクを囲み、麻人を見守っていた。


 希水と戯れていると、ドアをノックする音がした。恭一がドアを開けると母親が立っている。

「もう遅いし、麻人君と悠ちゃんは帰った方がいいんじゃない?」

「そうだな」

「麻人君達のお母さん、心配していると思うわ」

 恭一の母親が、ドア越しから中を伺っている。

 

 部屋にカラスがいるのを母親に見られるとまずいと思ったが、カラスはいない。恭一は、ほっとした。麻人と悠は、そろそろ帰ると言い、恭一の母親を安心させた。


「希水は、どこに行ったんだ?」

 恭一が聞くと、

「ここだよ」

 とベッドの下から出てきた。

 

 恭一は、窓を開け希水を一旦外に出した。麻人と悠は、恭一の母親が車で送ってくれることになった。恭一は、麻人達を見送った後、木の枝に止まっているカラスを見上げた。カラスは、すぐに飛び降りてきて、恭一の側にきた。


「希水は、今からどうする?」

「僕は帰るよ」

「あの滝まで? 遠いだろ」

「大丈夫! あの滝と神社の裏山にある川の水流が、繋がっているからね」

「簡単に行き来できるってことなのか?」

「うん。そうだよ」

「便利なんだな」

 

 恭一は、裏山の麓まで希水と一緒に行った。すると、カラスの姿の希水は飛び立ち、一瞬の間に消えてしまった。空を見上げると、星が綺麗に輝いていた。急に一人になり、少し寂しい気持ちになった。

挿絵(By みてみん)

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