猫とカラス
「恭一、どうしたの? 入るわよ」
彩音が、恭一の部屋の前で声をかけドアを開けた。
「キャー! 何よ、部屋にカラスなんか入れて」
彩音が不快そうな顔をし、カラスに近付いてきた。
「あれ? もしかして希水君なの? どうしたの?」
彩音がカラスに問いかけた。
「遊びに来たんだ」
と答えたカラスは、机の上から床に飛び降り、ビハクの横に並んだ。
「希水! こんな夜中に脅かさないでくれよな」
「ほんとビックリよね。恭一、固まってたもの」
彩音は、恭一の部屋から何かを感じ飛んできたが、ホッとした様子で恭一のベッドに腰掛けた。
「希水君って、カラスの姿になれるんだ」
彩音は、カラスをジロジロ見ている。
「スゴイ、スゴイ! いいなぁ」
彩音は、かなりテンションが上がっているようだ。
「姉さん、いいなぁって何だよ」
「だって、色んな所に飛んで行けるじゃない」
彩音はこんな状況でもすぐに受け入れている。恭一は、相変わらずだなと思った。
「姉さんは、前向きだな。関心するわ」
「恭一、バカにしてるでしょ?」
「まさか。姉さんがいてくれて助かった」
彩音はフフッと笑い、立ち上がって恭一の肩を叩いた。
「恭一、もう寝るんでしょ? 希水君とビハクは私の部屋にいらっしゃい」
「いいの? 姉さん」
「ええ。希水君とビハクと話したいし問題ないわ。おやすみ」
「うん。おやすみ、みんな」
彩音は、希水とビハクを連れ自分の部屋に戻っていった。
恭一は彩音に任せたことを申し訳ないと思ったが、急に眠気に襲われベッドに横になった。そのまま眠り込んでしまったようで、目覚めると朝日が昇っていた。
急いで食卓に行くと、彩音がテーブルで紅茶を飲んでいる。
「おはよう。よく寝ていたわね」
「うん。昨日は面倒ごとを押し付けてゴメン。すぐ寝てしまったようだ」
「面倒ごとって……楽しかったわよ。希水君は帰っちゃった」
彩音は、膝の上に乗ったビハクを撫でている。
「姉さん、学校は?」
「大丈夫」
今日、大学での午前中の授業が休講で、ゆっくりと下宿先に戻るようだ。
恭一は朝ご飯を食べ、いつも通り母親から弁当を受け取り高校へと向かった。自転車に乗り、駅へ向かいながら希水の訪問を思い出していた。麻人に話そうと思っていると、駅に向かう麻人に出会った。
「麻人、おはよう」
「恭一君、おはよう」
恭一は、駅前の自転車置き場に自転車を止め、麻人と並んで歩いた。
「実はさ、昨日の晩、希水が俺の家に来たんだ」
「え? どういうこと?」
麻人は、意味が分からず戸惑っている。恭一は、昨晩の出来事を事細かに説明した。
「驚いたな。希水ってそんな特技があるんだ。特技っていうのかな?」
特技とは違うかとブツブツ言いながら、麻人は笑っている。
「前世では、カラスの希水に会っていないのか?」
「うん。カラスは知らないね」
前世では、希水と会うのは滝の付近でのみだった。もちろん、カラスの姿を見たことがない。
「カラスの希水に会いたいな」
麻人はポツリとつぶやいた。
「すぐに会いにくると思うけどな。あいつ、麻人のこと好きだろ」
恭一の言葉に、麻人は嬉しそうに微笑んだ。




