訪問者
恭一と彩音は自宅に戻り、居間でくつろいでいた。
「麻人君も希水君も嬉しそうだったよね。良かったわ」
「そうだな」
にこやかに話している彩音に、恭一はぶっきらぼうに答えた。
「恭一は、前世もこんな感じだったの?」
「いやぁ、どうかな? もっと熱い男だったかもな」
と半笑いで答えた。
「そうよね。あんな素敵なプレゼントを贈れるもんね」
と彩音は笑いながら茶化し、喉が渇いたようで台所の方へ行った。
時刻は午後4時過ぎで、外はまだ明るい。恭一は、いつものように庭で剣道の素振りをすることにした。
軽快に竹刀を振っていると、何か視線を感じる気がして左の木を見上げた。その木の枝に1羽のカラスが止まりこちらを見ている。
「なんだ、カラスか」
恭一は気を取り直し、素振りを続けた。
今日、母親は忙しかったらしく、晩ご飯はお寿司や総菜など買ってきた物が中心だった。野菜サラダと味噌汁は作ってくれたようだ。彩音は、お寿司が好きなので喜んでいる。恭一も寿司は好きだし、いつも大変そうな母親には感謝している。だからといって、母親に改まって『ありがとう』と言ったことはない。
食後、母親はクイズ番組を見て答えをボソッと呟いている。恭一は、母親の答えが間違っているなと思ったが、わざわざ指摘しなかった。恭一も少しテレビを見た後、自分の部屋に行った。
自室で明日の授業の予習をすることにし、勉強机に向かった。
きりがいいところで、ふと昼間の川での出来事を思い出し、希水に貰った羽を眺めていた。
前世で、妻に贈った翡翠の簪の話題は本当に恥ずかしかった。前世のことであっても、自分の行いであるのは間違いなく照れくさい。けれど、麻人と悠の楽し気な顔を見ることができ、嬉しく思っている。麻人と悠が笑っている姿は、恭一にとって前世も今も心が和む。
恭一がぼんやりしていると、窓からコツコツという音が聞こえてきた。椅子に座ったまま、窓の方に顔を向けた。ゆっくりとカーテンを開けてみると、ベランダに鳥がいる。暗くてよく見えないが、割と大きめの鳥だ。カラスだろうか?すると、その鳥は嘴で窓をコツコツとつついてくる。
恭一は、驚きと不気味さに唖然としていると、ビハクがすかさず部屋に入ってきた。ビハクはその鳥の正面に立っている。そして、窓ガラスに左の前足を添えて恭一を見上げた。
「ビハク、窓を開けろということか?」
「ニャー」とビハク鳴いた。
恐る恐る窓を開けると、その鳥は部屋に入ってきた。やはりカラスである。そのカラスが勉強机の上にちょんと乗り、希水の羽を嘴でツンツンつつきだした。恭一は大事な羽なので慌てて手に取った。
「恭一、会いにきたよ」
空耳かと思うくらい、かすかな声でカラスが話しかけてくる。
怖くなり姉を呼ぼうとしたが、カラスはとても愛らしい目で恭一を見つめている。
「僕だよ。恭一」
「あ! お前、もしかして希水なのか……」




