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贈り物

「麻人君が前世で飼っていた猫は、コハクって名前だったの?」

 彩音が尋ねた。


「うん。そうだよ。真っ白でキラキラしていて、とっても可愛い猫だったんだ。光と白で光白(こはく)

「素敵な名前ね。美白(びはく)に光白、何か思うところがあって名付けたのかもね」

「どうなのかな? ビハクは何となく思いついて付けたから……」

 麻人と彩音は、ビハクを眺めながら語っている。



 コハクとの出会いは、アサが夫と息子を病で亡くし実家の神社で暮らしていた時だった。早朝に外を(ほうき)で掃除していると、どこからともなく白い猫が現れた。その猫は朝日に照らされ白く輝き、とても神々しく見えた。アサはコハクと名付け、可愛がった。コハクはいつもアサに寄り添い、その愛らしい表情や仕草にアサは心が和んだ。悲しみで心が晴れない中、アサが笑顔を取り戻せたのはコハクのお陰でもある。



「前世では、コハクがずっと僕の側にいてくれてんだ。ありがとう」

 麻人は、ビハクの頭を撫でながらニッコリ微笑んでいる。


「僕だって、アサの側にいたよ」

 希水が麻人を見ながら拗ねた様子で訴えた。


「希水も大切だよ。僕はすごく助けられたからね。ありがとう」

 希水が『ふふん』とした様子で満足気な表情をしている。


「そうだ! アサに渡したい物があるんだ。これ」

 希水は、小さな手のひらに何か丸い玉を乗せている。

「これは!」

 麻人は驚きを隠せない表情をしている。


「これは、翡翠(ひすい)かしら?」

 彩音が希水が手に持つビー玉のような物を覗きこみ声を発した。


「アサが川に落としてしまった大事な物。見つけたんだ」

 希水が麻人に手渡そうとしている。


「恭一君! 覚えてる? これは京之助様がアサに送った(かんざし)についていた翡翠だよ」

「えぇ? 俺、そんな物贈ったのかな」

 恭一は、すぐには思い出せなかった。


「やだー、恭一。前世のあなた、素敵じゃない」

 彩音がニヤニヤしながら恭一の肩をパチンと叩いた。恭一は前世のことながら、恥ずかしくなり無言になってしまった。


 麻人は希水から翡翠を受け取り眺めている。淡い緑色で、光に照らされ神秘的に見える。


「わぁ! すごく綺麗。そういえば、アサ様はこの緑の玉がついた簪をよく髪に差していましたね」

 悠も、恭一の方を向いてニヤニヤしている。恭一が無言でいると、麻人がプッと吹き出した。


「恭一君。ゴメンね。悠も彩音さんも……恭一君が困ってるよ」


「ゴメン、ゴメン。ところで簪なんだから、棒の部分の金具か何かはどうなったの?」

 彩音が麻人に尋ねた。


「川で希水と話していた時、翡翠の簪を髪から外して差しなおそうとしたら、玉が抜けて落ちてしまったんだよね」

 麻人が笑顔で答えた。

「あの時のアサ、すごく慌てていたし泣いてた」

「うん。だって京之助様からの贈り物だよ。ショックだったな」


「見つかって良かったな」

 恭一が麻人に声をかけると、なぜか彩音がまた笑っている。


「なんだよ。姉さん」

「ううん。恭一の前世が知れて、なんだか嬉しいわ」

 彩音が笑っている横で、悠は麻人を見ながら微笑んでいた。


「希水。ありがとう。何かお礼をしないとね」

「じゃ、また会いに来てよ」

「分かったよ」

 麻人と希水は手を取り合いながら、穏やかな表情で笑っていた。

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