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高校入学

 その日の夜も、恭一は夢を見た。今日も猫の登場である。

「麻人はお前の会いたかった人間だぞ。願いは叶えてやったぞ」

 猫のビハクが恭一に語っている。


「なんだと? アサトは男だぞ」

「同時期に生まれ変わるのは、なかなか難しいのだぞ。骨が折れたわ」



 目が覚めた恭一は、ビハクの寝床となっている座布団の方を見た。ビハクは前足をきちんと揃えて座り、恭一を見ている。

「今日もお前が夢に出てきたぞ」

 ビハクは小さな声で「ミャー」と鳴いた。


 恭一は、『神のお告げか?』と思い、落ち着かなかった。けれど、たかだか夢だと気分を切り替えた。今日は高校の入学式である。


 恭一は朝ご飯を食べながら、前世の自分を思い起こした。


 今から300年ほど前、武士の家の長男として生まれた。幼少の頃から武道に学問に励み、厳しく育てられた。のちに許嫁と結婚し、つつましやかだが幸せだった。もっと妻をかまってやれば良かった……そのことを今でも悔やんでいる。自分には勿体ないくらい、よくできた妻だった。

『アサ、来世でもお前に会いたい』アサとは、前世の恭一の妻の名前である。


『あ! あいつの名はアサトだったな。偶然にも似た名前ではないか』

 恭一は、『まさか』と思いつつ、気を取り直し制服に着替えた。

 母親と姉に見送られ、恭一は玄関を出た。母親は、後から入学式に来るようだ。

 

 恭一は、年季の入った自転車で駅に向かった。20分ほど電車に乗り、駅からは徒歩で約10分である。

 

 校門を通り抜け、まずはクラス分けを見に行った。

「俺のクラスは4組か」


「キョウイチ君! おはうよう。何組だった?」

「あっ!」と驚いた表情をしてしまった恭一に麻人は首を傾げている。


「俺は4組だ」

「同じクラスだ。知り合いがいなくて不安だったんだ。良かった」

 にこにこ顔の麻人と仏頂面の恭一。雰囲気の違う2人だ。


「ビハクちゃん、元気にしてる?」

「ああ、元気すぎて夢にでも出てくるぞ」

「え? 夢?」

「いや、何でもない」


 入学式を終え、教室に移動した。担任は25歳の国語の男性教師だ。

 名前は三浦という。眼鏡をかけ、背が高くほっそりとしている。

 連絡事項など聞き終え、下校することになった。


「一緒に帰ろうよ」

 と麻人に声をかけられ、2人で並んで歩いた。麻人は恭一の耳あたりの背丈だ。

『165センチくらいだろうか?』と恭一は思った。


 2人で帰りながら会話し、麻人のことが少し分かってきた。1年前、両親が離婚したこと。今はアパートで母親と妹と3人で暮らしていること。昔、犬を飼っていたことなど……

 麻人は、恭一にも色々と聞いてきた。家族のことや趣味など。それに素っ気なく答えている。麻人は、いつも笑顔で話すなと恭一は思った。


 恭一と麻人はいったん自宅に戻り、あとから恭一の家に麻人が来るようだ。猫のビハクが気になるらしい。


 しばらくして麻人が来たので、恭一は出迎えた。麻人の後ろには女の子がいる。

「妹がビハクちゃんを見たいって言うから連れてきたんだ。妹の(ゆう)


 麻人の後ろから顔を出し、恭一を下から見上げている。日に焼けた活発そうな女の子だ。


京之助(きょうのすけ)殿?」

 麻人の妹が、恭一に向かって言った。恭一は耳を疑った。それは、恭一の前世の名前である。

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