母の日
「今日は母の日だよね。今から買い物に行こうかな?」
陽一の運転する車中で麻人が言った。
今、午後1時過ぎである。このままの服装だと土まみれなので、一旦家に戻り着替えてから2時に駅前で待ち合わせすることにした。
麻人と悠を自宅前で降ろし、陽一と恭一も自宅へと向かった。恭一が車から降りると陽一に呼び止められた。
「恭一。これで3人で何か美味しい物でも食べてきなさい。残りはお前の好きにしなさい」
恭一は陽一から1万円を渡された。
「ありがとう。爺ちゃん」
恭一は貰いすぎだなとは思った。けれど、麻人や悠に何かご馳走してあげたいし素直に受け取った。
恭一は部屋に戻り、素早く着替えをし自転車で駅に向かった。駅前に着くと麻人と悠はいた。麻人はシャツにパンツといつもと変わらない感じだが、悠は水色のワンピースを着ている。
「悠、今日はいつもと違って可愛らしい服だな。似合っているぞ」
恭一が褒めると、悠は恥ずかしそうにしている。
「この服は奈穂ちゃんから貰いました」
「可愛いよ。悠」
麻人がニヤニヤした顔で言った。悠と奈穂は一緒に出掛けたり電話したり、すっかり仲良しになったようだった。
3人で電車に乗り、ショッピングモールへと向かった。そこは電車で5つ目の駅にあり10分程で到着する。恭一達の最寄り駅とは違って、大きめの商業店舗があり住民も割と多い。週末になると家族連れが多いようだ。
駅を降り、目の前のショッピングモールへ入っていった。
「母の日のプレゼント、何にするか迷うね」
麻人が言うと、悠はキョロキョロと周りを見ていた。まずは量販店で婦人コーナーを見てみた。バッグや靴や服などを物色したが、良い物は少し予算が足りず諦めた。次に専門店フロアーに行ってみた。
「お兄ちゃん、恭一様! 見て見て。ビハクみたい」
悠が白い猫のぬいぐるみが付いたキーホルダーを手にした。
「本当だ。可愛いね」
麻人が言うと、悠がじっと見ている。
「欲しいのか?」
恭一が尋ねると、
「奈穂ちゃんに色々と貰っているから何かお返しがしたくて」
と悠が言い眺めている。そのショップは均一の価格で意外と手軽に買える値段で恭一も麻人も驚いた。結局、悠は奈穂の分と自分の分を2個買っていた。母の日のプレゼントはいいのだろうかと恭一は思った。
また違うショップを覗くと、婦人雑貨が充実していた。財布やキーケースや化粧ポーチやエコバッグなど。そして、悠が傘を手にした。紺色にピンクや黄色の小花が刺繍された傘だ。どうやら、雨の日や晴れの日にも使える傘らしい。
「これからの季節、日差しがきついから喜びそう」
と悠が言うと、麻人もなるほどと言わんばかりに頷いている。悠と麻人は、その傘を買うことに決めたようだった。
「恭一君も、お母さんにどう?」
と麻人に言われ、同じ傘の色違いを買うことにした。恭一はベージュ色にした。値段は消費税込みで3千円弱だった。お互いプレゼント包装にしてもらい、なかなかいい買い物ができたと恭一は思った。
悠はもっと色々見たいと言っているが、恭一も麻人も少々疲れた。女の子の買い物に対する意欲は凄いなと恭一は感じた。
「奈穂ちゃんとまた来たら?」
麻人は悠を促した。そして、陽一から美味しい物でも食べてくるようお小遣いを貰ったことを伝え、レストランフロアーへ移動した。
結局、メニュー豊富なファミリーレストランに入った。悠はハンバーグ。麻人はオムライス。恭一は豚カツにした。悠は、麻人のオムライスや恭一の豚カツを少しずつ貰い嬉しそうだった。その上、デザートにシャーベットも食べていた。
「ほんと悠はよく食べるわ」
と麻人は笑っていた。
陽一から貰ったお金が少し残ったので、祖父母の好きな大福餅を買ってお土産にした。恭一は家に帰り、母親にプレゼントを渡した。母親は部屋で傘を広げ、とても喜んでくれた。恭一は、体は疲れたが気分はとても良く楽しかったと満足だった。