祠と石碑
畑仕事を一通り終え、恭一達は小屋の方へ行った。早朝、祖母がお弁当を作ってくれた。オニギリや卵焼きや唐揚げやレンコンのきんぴらが入っている。
「美味しそう。お腹減った」
と麻人も悠も大喜びだった。天気がいいし、せっかくだから外で食べようということになり小屋の前にビニールシートを敷き、みんなで昼食にした。
「こんな美味しいオニギリ初めてだ」
麻人が笑顔でご飯を頬張っている。
「この唐揚げも最高です」
悠が口の中いっぱいにしている。
「おいおい、ゆっくり食べないと喉をつまらせるぞ」
恭一は笑いながら、悠を見て言った。麻人と陽一は爆笑している。
「みんな、よく頑張ってくれた。早く作業が終えて助かった」
陽一は満足そうな顔である。
「これは少ないが取っておきなさい」
陽一は、麻人と悠に封筒を渡した。中にはそれぞれ3千円が入っていた。
「こんなの貰えないです」
麻人が申し訳なさそうに言うと、
「働いた分の報酬だ。受け取っておきなさい。またお願いするかもだしな」
麻人と悠はお礼を言い、母親に何かプレゼントしようと楽しそうに語っていた。
「感心なことだな」
陽一は嬉しそうだった。恭一は、自分には報酬がないのかと思ったが言わずにいた。
そういえば、ビハクがいないと麻人が気付き、みんなで探していると小屋の裏の山林の前にビハクが座っていた。
「ビハク、どうしたの?」
麻人が声をかけるとビハクは山林の中へ入っていった。恭一達は、ゆっくりと歩くビハクに続いた。恭一達が付いてきているか確かめるように、何度かビハクは振り向いた。数十メートルほど歩くとビハクはピタリと止まった。そして、目の前の物を見ている。
「何だろう? これ」
と麻人が苔の生えた石を触った。
「これは、祠と石碑のようだな」
陽一が驚いたように声を上げた。そこには、かなり古そうな石造りの祠があり、その横には石碑が並んでいた。陽一は、ここに祠があることを知らなかったようだ。この土地を守る神様を祀っているのだろうと陽一は言った。麻人が石碑をじっと見ている。
「どうかしたのか? 麻人」
「うん。なんだか懐かしいような……そんな気になったんだ。不思議だね」
悠は祠の前で手を合わせている。悠は何か知っているのだろうかと恭一は思った。
陽一の助言で、その祠と石碑を掃除することにした。一旦、小屋に戻り新しいタオルと水の入ったバケツを持って、再び祠へ向かった。石碑には何か文字が記されているようだった。けれど、風化しているせいでよく分からない。みんなで綺麗にし、畑の隅の木に実っていた夏みかんをお供えした。
車の中、後部座席の麻人は膝上にビハクを乗せ、ボンヤリと外を見ている。悠は疲れたのか爆睡中だ。ビハクは、祠と石碑があることを知らせたかったのだろうか。改めて、謎めいた猫であるなと恭一は感じていた。