畑仕事
「おはよう」
麻人と悠が、自宅であるアパートの前で手を振りながら挨拶をした。
「朝早くに悪いな」
恭一は祖父の運転する車から降り、麻人と悠を車に乗るよう促した。普段、祖父の陽一が畑に行く時は軽トラに乗っている。今日は恭一、麻人、悠がいる。軽トラは2人乗りため、恭一の父親が使っているワゴン車を借りて畑へ出発した。今、ちょうど午前7時。
「今日は、よろしく頼むぞ」
陽一が声をかけた。陽一は、今朝は5時半に起き張り切っている。
「よろしくお願いします」
麻人と悠が元気よく言ったが、悠は少し眠そうな顔をしている。2人ともTシャツにトレーニングパンツだ。恭一もTシャツにスウェットパンツである。
車を15分ほど走らせると陽一の畑に到着した。今日は天気が良く、青空と畑の緑がとても清々しい気分にさせてくれる。
「わぁ、結構広いんだね」
麻人が驚いたように眺めている。広い土地の一角に畑があり、畑以外は雑草が茂っている。畑自体は100坪ほどだ。畑の奥は山林である。
「今日は、土を耕してキュウリとゴーヤとナスビとトマトの苗を植えようと思う」
と陽一が大きな声で言った。
「分かりました」
悠も負けずに大きな声で答えた。
「悠ちゃんは元気があってイイ子だね」
陽一は上機嫌に笑っている。
恭一が、車の荷物を降ろそうと後部ドアを上に開けると、箱の中にちょこんとビハクがいた。
「お前、いつのまに」
麻人と悠も驚いたが、すぐに笑い出した。
「ビハクも来たのか。みんな、こっちに来なさい」
陽一に言われ、畑の脇に立つ小屋の方へ向かった。
その小屋はキッチンとトイレとシャワールームと8畳ほどの部屋がある。ちょうど一人暮らしでも出来そうな小屋だ。
陽一は、朝早くに畑に来て、畑仕事をしたり、部屋で休憩したり昼寝したりして過ごしているようだ。肌は小麦色に焼けてツヤがあり、とても健康的に見える。
小屋の冷蔵庫から冷えたお茶を取り出し、まずはみんなで喉を潤した。ビハクも小皿の水を飲んでいる。
「さぁ、始めようか」
陽一が声を張り上げ、悠だけが
「はい!」
と答えた。恭一は心の中で『ありがとうな。悠』と感謝した。
陽一から帽子と長靴を渡された。そして4人みんなで首に白いタオルを巻いている。
まずは畑に生えた雑草を抜くことから始めた。陽一から薄手のビニール手袋を渡されたが、だんだん面倒になり最終的には素手で抜いた。暖かくなってくると、雑草は1日ですぐに生えてくるそうだ。中腰での作業は思っていた以上に大変である。
陽一から、次は土を掘り起こして土に空気を入れる作業を命じられた。悠は鍬を手に軽快に耕している。
「悠。すごいな。俺も負けられないな」
恭一と悠は、2人揃って勢いよく土を掘り起こした。その近くで、麻人がすでにバテたのか動きが遅くなっている。そこへ陽一が苗の入った箱を小屋から持ってきた。
「さぁ、この苗を植えていこう」
陽一の指示で、キュウリやナスビなど等間隔に綺麗に植えていった。軽く肥料をまき、たっぷりの水をやった。作業が終わった頃には、達成感とともに疲労感に襲われた。みんな汗だくである。
「畑仕事って大変だね」
麻人が言った。
「みんな、お疲れさん。ちょっと早いがお昼ご飯にするか」
陽一が明るくよく通る声で言った。