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猫と少年

 駅前にコンビニはあるものの、大きなビルがないのどかな町。

 路線バスは1時間1本間隔で、乗り遅れると歩く方が早いだろう。


 バス停を横切ると20店舗ほどの商店街がある。商店街を抜けると民家が立ち並び、1車線の道路と狭い歩道が続いている。

 その道なりを15分ほど歩くと大きな木がそびえ立つ場所が現れる。その木々の中を歩いて行くと、ひっそりと佇む神社がある。

 そこは、昔から一世一代の願い事を1つだけ叶えてくれると言われている。

 近年はSNSでの影響か、週末になると参拝者が案外いる。都心から電車で1時間程なので、意外と不便な場所ではない。



「シュッ、シュッ、シュッ」

 今日も剣道の素振りの稽古をしている青年がいる。彼の名前は長月恭一(ながつききょういち)

 神社に隣接した自宅の庭での稽古が日課である。


『本当に物の豊かな時代に生まれてきたものだ』

 恭一は、しみじみと感じている。彼には前世の記憶があるのだ。

 といっても、生まれた時から記憶があった訳ではない。


 あれは、2年前。剣道の稽古中にうっかり転んで脳振とうを起こしてしまった。幸いすぐに意識は戻り、病院での検査も問題は無かったのだが……

 目覚めた恭一には前世の記憶があったのだ。


『まさか、(がん)をかけた神社の息子として生まれ変わるとはな』

 剣道の素振りを終えタオルで汗を拭っている時、ふと社殿の脇の大きな木に目をやった。樹齢300年は超えるであろう立派な杉の前で、うずくまっているような少年がいる。


「どうした? 気分でも悪いのか?」

 恭一が声をかけると丸顔の可愛らしい少年が振り向いた。


「この猫が、カラスに襲われていたんだ」

 真っ白な小さな猫が、地面にぐったりと横たわっている。


 恭一の自宅の庭に猫を連れていき様子を見ると、ケガはないようだった。

 冷蔵庫にあった牛乳を小鉢に入れ、猫の口元に置くとゆっくりと飲みだした。

 恭一と少年は、ほっとした様子で猫を見守っていた。

「この猫、どうしようか? うちはアパートで飼えないし」

「俺も無理だぞ」

「また襲われないかなぁ?」

「……」

「飼い主を見つけるまで、預かってくれないかな?」

 くりくりした目の少年に見つめられ、恭一は困惑した。


「君はこの辺りの子なのか?」

「最近、この近くに引っ越してきたんだ」

 

 少年は、小柄で童顔のせいか中学生くらいに見える。けれど、恭一と同学年で同じ高校に入学することが分かった。

 

「俺の名前は長月恭一」

「僕は小野田麻人(おのだあさと)。よろしくね」


「ねぇ、この神社は一世一代の願いを叶えてくれるって聞いたよ。この子の飼い主が見つかるようにってお願いしようかな」

「はぁ? もっと大事なお願いをしろ」

「そうだね」

 麻人のあどけない笑顔につられ、恭一も笑っていた。

 とりあえず猫を預かることにし、恭一と麻人はお互いの連絡先を交換した。

「ありがとう」

 と言い、麻人はにこやかに手を振り帰っていった。

 

 家にあった座布団に猫を寝かせると、猫は毛づくろいを始めた。その姿を眺めながら、ため息をつく恭一だった。

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