project:023 魔獣
project:023 魔獣
九單は駆ける。魔獣の足止めを行うために。道中、迫り来る小さな魔獣達を両の手に握った短剣で切り裂き、亡骸の上を飛び移る。
遠くで微かに見えていた対象は、今となっては目と鼻のさきほどだ。
「待て!兄ちゃん!そんな装備で行くのは自殺するようなもんだ!止まれ!」
誰かが吠える。あの獣人だろうか、視界の端にとどめたのは、他の冒険者を庇うように覆い被さっている――吹き飛ばされないよう身を寄せ合っている塊が見えた。ここまで逃げてきたようだ。傷の程度から見ても手酷くやられたのがよくわかった。
だが九單は止まらない。軽々と魔獣からの攻撃を捌き切ると、魔獣を細切りにしてみせた。その後も幾度かその攻防があったのち、トラップの準備が整ったとの連絡が入る。
「さて……上手く来いっ、よ!」
九單が踵を返す。ヘイトが完全に九單に向かっている魔獣は、殺さんという勢いで追いかける。突然、魔獣から大量の胞子が放出され、あたりは毒霧に包まれた。
装備が十分でないものはその場に倒れ込み、またしっかり準備をしてきた者も、この濃度は想定外のようで、あたりには苦しむ人々で溢れかえった。
九單もその1人である。口の中が血でいっぱいになりたまらず外に吐き出した。碌な装備もしていない彼は毒の影響をもろに受けたのだ。
しかし、彼は倒れなかった。
理由はもちろん――――彼がゾンビだからだ。
九重 九單――種族•屍人。珍しい種族だった。彼はその不死に近い生存能力のおかげで、今まで数々の無茶をしてきた。
今回もそうである。
体から血が吹き出しているが止まる様子などなく、一直線にトラップ地点まで走ってくると、そこで九單は反転した。そして魔獣が掛かったと同時――とてつもない轟音と共に魔法陣が展開し、魔術が白い鎖となって魔獣に絡み付いた。
最後の一仕事だ。九單は構える。鎖が次第に薄れ、完全に魔獣の体内に取り込まれた時、魔獣がもがき苦しむように身を捩った。
それを見逃すはずもなく、九單は一気に駆け出すと、魔獣の体を何往復もし、無数の切り傷を作った。
どれもこれも命に届く傷だ。たまらず魔獣は最後の悪あがきのように胞子を出した後、ゆっくりと横に倒れた。
「いやー兄ちゃん強かったんだなあ!悪かったよ、舐めたこと言って」
世界連合 本部――にある酒場では、打ち上げが行われていた。
今回の討伐目標魔獣は突然変異だったようで、ランクで言うと1つ上だったようだ。
「まあ、その分報酬もたんまりもらったし、俺は気にしてねえけどな!」
ガハハ、と笑う獣人。九單はそいつのタフさに少し感動しながら、目の前の肉をつついた。
魔獣••••意思疎通のできない、無差別に攻撃する
非•人型のこと。その姿形は様々だが、こちらに攻撃しようと言う意思は変わらない。




