project:018 蠱毒
project:018 蠱毒
あたりはすっかり夜。夜といえば、魑魅魍魎が渦巻く時間。主役が妖怪達にバトンタッチする時間だ。
そんな妖怪だけど、人に悪さをする奴も、もちろん、いる。
そもそも、彼らの居場所はここではなく、どちらかというと魔界の方なのだが……ムー国は全体的にその境界があいまいだ。だからこそ、妖怪達とも調和をしなくてはならない。
そしてここ、神舞町。ここは他よりも怪異や妖怪の数が多く、かつまた、「悪霊」の類の目撃数が馬鹿にできないほど多い。
だから、闇に紛れてそれらを祓う、彼らが、いる。
「まったく……この類の悪霊には飽き飽きさせられますね」
――9代目『蠱毒』 地名伊弉
目の前には、闇の集合体か、黒い肉の塊か、おおよそ人でないモノがベチャベチャと音を立てて存在していた。
「貴方も、ここが自分の心地の良い居場所では無いとわかっているはず」
地名が『迦杓』に手をかける。それは杓の様な形ではあるが、柄の部分が長く、刀の様に長い。
「申し訳ないですけど、お帰り願いましょうか」
形も不確かなソレに向かって踏み込むと同時、迦杓を掴んだ地名の手から黒く澄んだ煙に似た何かが噴き出す。それは一瞬で地名の体を包み込むと、スウッと、体に染み込むかの様に消えていった。
壁を伝い、電柱を蹴り、ソレの頭上に飛び出すと、両手で迦杓を掴み、そのまま落ちるかの様に振り下ろした。
ソレ――悪霊――肉塊――は避けたらしく、思うような損害を与えられていなかった。しかしそれも構わず地名はまた走り出す。
防御機能はあるらしく、自身が攻撃されたと知ると、肉塊は地名に向かって触手のような、黒いヘドロのような物体をぶつけようとしてくる。それを右へ左へ、或いは弾いて、本体へと進む地名の足は止まらない。
次の攻撃を左へ避けると同時、地名は置いてあったゴミ箱を掴み、それを力一杯投げ飛ばした。
それは、相手の視界――感覚に近いモノ――を潰し、攻撃を掻い潜ることに成功した地名は、宙を舞うゴミと箱の下から現れた。
右足を一歩踏み出し、切り裂くように手に持った武器を振り上げる。今度は直撃したらしく、耐えることのできなかったそのなりそこないは、小刻みに震えて霧散した。
後に残るは、ソレが吐いた血のような粘液と、冷たく佇む1人の剣士のみ。
蠱毒••••本来は壺の中に魑魅魍魎を入れ、殺し合いをさせるもの。それをあろうことか悪霊にして、器を人間にすげ変えて己が力としている。蠱毒の中に何がどれくらい詰まっているかはその代によって変わるが、地名 伊弉、彼女の場合は「小さく弱き霊を幾万幾億」。彼女の小さくて大きな不幸の数々はここからきているのかもしれない。




