8話 ルフェルミアの真の目的
「――早かったのね、ケヴィン」
「はい。ルフェルミアお嬢様からのご連絡とありましたら、例え地の獄の果てからであろうとすぐに参りますとも」
漆黒のスーツとネクタイ、そして黒の外套を羽織った白髭のよく似合う初老の男が私の前に跪く。
対して私はホワイトのドレープがきいたブラックのドレススカートを着こなし、平伏する彼へと立ち上がりなさい、と手で合図をする。
「もうよろしいのですか?」
「ええ。昨晩、ようやくリアン様から必要な情報は得られたわ」
「では彼とあの家はもう用済みと」
「そういう事ね」
「どうされるのですか?」
「当然、私は最後の仕事を終えてから消えるだけね。もう荷物もまとめてあるし」
「……かしこまりました。事後処理に関しては私に一任すると旦那様に言われておりますので全てお任せを」
大王都カテドラルの裏路地。
煌々と闇夜に輝く満月の日の夜にて。
そこで私と会話しているこの初老の男、ケヴィンは我がイルドレッド家の執事だ。
先日行われたグレアンドル家での話し合いから一週間後の今。
結局その後、ミゼリアお義母様もドウェインお義父様もリアン様の説得には成功せず、彼らにはまだ正式に認められてはいないが、私とリアン様は婚約関係となっていた。
ヴァン様はあれ以来ほとんど私の前に姿を現さなくなったし、ミゼリアお義母様や侍女たちからの虐めもなくなった。おかげで私はこの一週間でリアン様と二人で過ごす時間がたくさん取れた。
完全に気を許したリアン様は私に一切の隠し事をしなくなり、ペラペラとグレアンドル家に関する様々な極秘情報を横流ししてくれた。
私の真の目的はグレアンドル家の薄暗い裏の証拠を掴む事。
とある貴族が起こした犯罪の揉み消し。他国への密輸や違法薬物に関すること。禁酒の秘密譲渡、イカサマギャンブルの組織的犯行……等々、の問題行動の端々にグレアンドル家の影がチラついていたという情報に関し、私はその裏取りの為の潜入工作員というわけだ。
そしてそれらの犯罪に関与していたグレアンドル家の犯人はミゼリア・グレアンドルであることが判明した。
その様々な物的証拠と実情をよく知る者からの事実確認を得る為だけに私はリアン様に近づいた。
何故リアン様を狙ったかというと、王女殿下の件があったからである。
王女殿下とリアン様が親密な関係になってしまうと後々色々不利な状況が生まれかねない。だから私はリアン様の異性の対象を私へと向けさせるよう仕向けた。
そしておかげでようやく私は目的を達成する事ができたのである。
「さてお嬢様、リアン様はいつも通り消されるのですか?」




