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79話 私を殺す犯人

 それから。


 ドラグス王太子殿下、エルフィーナ第二王女殿下、聖女メリアの三人が私とヴァンの味方となり、リアン様は抵抗する術を無くし、結果、私とリアン様は無事この場で互いに一切のお咎めを無しとして、婚約破棄が成立した。


 全ては事前に話を合わせておいたドラグス王太子殿下たちのおかげである。

 私が死なない為の条件を理解した日に、私はドラグス王太子殿下に協力要請をした。

 そしてそれはエルフィーナ王女殿下にまで伝播することとなった。何故ならドラグス王太子殿下がエルフィーナ王女殿下にも直接対話して交渉を持ちかけたからだ。


 それによってリアン様の不穏な企みを阻止することことに皆が賛同してくれた。

 エルフィーナ王女殿下はまだいくつか納得していない部分もあったが、彼女はそれでも私たちの提案を受け入れてくれた。


 その理由は――。


「く、くそ! これでは僕ひとりが馬鹿なピエロじゃないか……ッ」


 パーティー会場の隅の方でリアン様がそう呟いているところへエルフィーナ王女殿下が近寄る。


「リアン様。ご安心なさって? それでも私はリアン様をお慕い申し上げておりますわ」


「エルフィーナ王女殿下……。それはなんの嫌味ですか? 僕はあなたも騙して、誑かしていた。ドラグス王太子殿下やメリアたちの言葉の通りですよ」


「ええ。それでも私はあなたを好きなのですわ。だからリアン様がよろしければ、私と改めて婚約して欲しいのです」


「エ、エルフィーナ王女、殿下……。ぼ、僕は……」


「誰にでも誤ちや失敗、道に迷うことはありますわ。リアン様も少し頑張り過ぎてしまっただけですわよね」


「……ッ!」


 リアン様は今にも泣き出しそうな表情をして見せる。


「……少し、考えさせてください」


「ええ、リアン様。私はいつまでもお待ちしますわ」


 エルフィーナ王女殿下は笑顔で頷いた。

 エルフィーナ王女殿下の一途過ぎるリアン様への愛情が、今回の逆転劇の一番の功績であるとも言える。


 このリアン様の企みに対してもしもエルフィーナ王女殿下が、完全にリアン様の言葉通り私を陥れる為だけに動いていたら、私は不貞行為で当然罰せられていてもおかしくなかった。

 演技の上でとはいえ私の愛がリアン様に無くなり、エルフィーナ王女殿下がリアン様を独り占めできることが一番だと考えてくれたおかげで、私は助けられたのである。


 ――そして。


「ルフェルミア。さっきの言葉は本当なのか?」


 ヴァンが少し照れくさそうに私の隣で目を背けながら、そう問い掛けてきた。


「……ええ。私はあ、あなたが好き、よ」


 私も少し顔を伏せながら答える。


「どうしてこんな形で……。こんな風にするなんて、俺は聞いていなかったぞ」


「こんなこと事前に言えるわけがないもの。私があなたに告白するわ、だなんて」


「そ、そうかもしれないが……。だが、何故この場で告白してくれたんだ? 別に告白までする必要はなかったんじゃ?」


「これが犯人だったから、よ」


 私は笑顔でヴァンを見る。


「犯人……? 一体どういう……」


「ねえ、ヴァン。私、何か変わった感じしない?」


「変わった感じ? ……と言っても俺にはなんだかよくわからないな……」


「あ、そうよね。あなたには感じとりにくいかしら。なら、そこにいるメリアに聞いてみたらわかるわ」


 私がそういうとヴァンはメリアを呼びつけて、私の変化について尋ねる。


「あら、ヴァン様はお気づきになられておりませんのね。ルフェルミアは今、ものすごく総魔力量が落ちていますわ。ヴァン様ほどではないとはいえ、一般的な貴族くらいに落ち着いていますわね」


 メリアの言う通り、私の魔力はその多くが失われた。

 私はおそらくこうなるであろうことをメリアとドラグス王太子殿下には話しておいたのである。


「な、何故だ? お前に一体何があった?」


「これが答え。私を執拗に死に至らしめようとする強制力の犯人は、私自身の絶大な魔力だったの」


「な!? ど、どういうことだ!?」


「ヴァン、あなたの予知夢が失われた日。あの時には私の心は決まっていたの。私の心が決まったからこそ、ヴァンの予知夢は役目を終えたのよ」


「さ、さっぱり意味がわからない。ルフェルミア、お前は一体何を言っているんだ?」


「端的に言うと、私がきちんとあなたへの想いを告白しない限り、私はどうあっても殺されていたのよ」


「何故だ……?」


「それは……後で千年大樹の所で、二人きりの時に全てを話すわ」


 ここで話すには人目が多過ぎる。

 けれど答えは魔女王ルミアの呪いとも言える絶大な魔力だった。

 魔女王ルミアは言っていた。


『自分が他の男を好きになったりしたら自分で自分を呪う』


 ルミアにはナーヴァ以外の男を愛するなど、絶対に許さない、許されないことだった。

 例え偽りでもルミアはそれを許さなかった。

 だから仮に私がこのままリアン様と結ばれてしまうようなことがあれば、私はルミアの呪いによって自身の魔力で自害を選ぶように行動させられてしまうのだと推測したのである。 


 だが、そもそもヴァンの予知夢で何故、リアン様との婚約関係になる必要があったのかを考えた時、私の中のルミアの声はこう言った。


【ナーヴァの愛を確かめて確実なものにしたかった】


 なんてことはない。

 リアン様と私がくっついたように見せて、ヴァンが私に告白するような流れを作りたかったが為だけに、こんな非常に回りくどいことをさせた、らしい。


 つまりは恐ろしいことにヴァンの予知夢でさえも、かつてのルミアの魔力が起因したある意味での呪いであり、この未来へと導く為の、ルミアの壮大な魔法であったのだ。


 オペラの時も思ったけれど、本当に愛の深さが起こす奇跡というものは凄いものなのね。



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