77話 リアンの想定外
「今宵はこのような壮大で盛大かつ豪華絢爛なパーティーを用意してくれたこと、感謝しております。卒業生代表として、このリアン・グレアンドルがあつく御礼申し上げさせてもらいます!」
リアン様が私の隣に戻り、彼は声を張り上げてパーティーに参加している人たちへと向けてそう言い放った。
「この場を借りて、私、リアンから至極私的なことではございますが、ひとつ大切な発表をさせてもらいたいと思います!」
さあ、始まるわ。
私の断罪式が。
「私は以前よりお付き合いさせていただいておりました、この隣にいる彼女、ルフェルミア・イルドレッドと婚約しておりました」
ざわざわ、と会場内がざわめく。
私という存在はリアン様の通う魔法学院の生徒たちにはほとんど知られていない。
というか、そもそもリアン様の交友関係についても私は知らないので、この場では私はかなり浮いている存在とも言える。
「……ですがッ!」
リアン様の目つきが変わった。
私を見る目がついに初めて変化し、冷たく鋭くなった。ついに仮面が剥がれたわね。
「ルフェルミア・イルドレッド! 僕はキミとの婚約を今、この場で破棄させてもらうッ!!」
リアン様の宣言により、会場内のざわめきが更に増した。
私はリアン様の言葉を少し驚いたように目を見開いて見せ、それでも黙って受け入れている。
「何故、というような顔をしているね。ルフェ。僕が知らないとでと思ったかい? キミが僕という婚約者を差し置いて他の男を浮気ばかりしていることを」
「……っ」
私は驚きのあまり声が出せない――そんな雰囲気と態度でリアン様を見据えた。
「その相手がまさかヴァン兄様だったなんて、思いもよらなかったよ。弁明があるなら聞かせて欲しいな」
「……わ、私がヴァン様と浮気している、というのは一体どういうことなのですか?」
「とぼけるなよルフェ。キミは僕という婚約者がありながら、僕との約束をすっぽかし、一度は婚約破棄されたはずのヴァン兄様といつの間にかヨリを戻して二人で密かに舞踏会に参加したり、デートに行ったりしていたそうじゃないか」
「そ、それは……」
「違うとでも言いたいのかい? 下手な嘘は逆効果だよ。こっちには信用の高い人からの証言があるんだ」
「信用の高い人……?」
「そうさ。キミの後ろにいる、彼女だよ」
リアン様が私の後ろにいる人物を指差す。
そこにいたのは――。
「皆様、今宵は私もお招きくださりありがとうございますわ。此度、現聖女を務めさせてもらっております、メリア・ウィンストンと申しますわ」
メリアは可憐なカーテシーで挨拶を交わして見せた。
「ルフェ、聖女メリア様のことはさすがに知っているよね? 僕はね、実は彼女とは親友でね、その彼女から教えてもらったんだよ」
「そ、そんな……」
「皆さん、聖女メリア様の言葉をお聞きください! 僕が婚約者に裏切られた経緯も証拠も!」
リアン様は勝ち誇ったかのように声を荒げている。
メリアも小さな笑みを浮かべている。
「そうですわねリアン様。私はハッキリ見て、聞きましたわ」
会場中がメリアの言葉を神妙な面持ちで聞き入っている。
「リアン様がこのルフェルミアに対して、不誠実な行為を繰り返していたことを」
「……は?」
リアン様が目を丸くした。
「リアン様はルフェルミアという婚約者がいるにもかかわらず、エルフィーナ第二王女殿下とも恋仲にありました。そうですわよね?」
「なっ……!? おいメリア! お前、何を言って……!」
「このリアン様はそれだけに留まらず、自分の不貞行為を棚にあげ、婚約者であるはずのルフェルミアに対し、不貞行為をしたという容疑をこじつけて慰謝料の請求までする予定でございました」
「メリア、貴様ぁ……! 僕を裏切るのか!?」
「裏切るも何もないですわ。私は事実を述べているに過ぎませんもの」
「……ぐ! だ、だったら王女殿下本人から証言してもらうまでだ! お前たちは知らないであろうが、王女殿下はこの会場に密かに来てもらっている! エルフィーナ王女殿下!」
リアン様が叫ぶと、物陰に潜んでいたエルフィーナ王女殿下がスッと現れた。
「エルフィーナ王女殿下! この愚かな者たちに言ってやってください! 裏切られたのは僕であると!」
リアン様はエルフィーナ王女殿下に裏で作り話をしている。
その内容もすでに私は全て把握しており、リアン様はエルフィーナ王女殿下にこう言っている。
『僕とルフェルミアは婚約状態だが、それは親が決めたことで仕方がなかった。しかしルフェルミアは僕を裏切り別の男と不貞行為を働いている。僕が心から愛しているのはエルフィーナ王女殿下だけだから、僕に協力してくれればルフェルミアとの婚約を正当に破棄でき、無事あなたと結婚できる』
……と。
エルフィーナ王女殿下はこの言葉を信じて、これまでリアン様についてきたのである。
「皆様、ごきげんよう」
「「王女殿下に敬礼!」」
「「殿下、ご機嫌麗しゅうございます!」」
会場中の生徒や教員、来賓や他貴族の者たちがエルフィーナ王女殿下に敬意を表して敬礼した。
さあ、ここからが本番だわ。




