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71話 私を殺す犯人は

「……もういいか?」


 それまでほとんど沈黙を保っていたヴァンが言葉を発した。

 おそらくドラグス殿下の先ほどの発言内容をヴァンは事前に知っていたのだろう。私の反応を窺う為に黙っていたのか。


「本題に入ろう」


「うむ、そうだな」


 ドラグス王太子殿下も真剣な表情で頷く。


「俺が今日ドラグスを連れてルフェルミアをここに呼んだのにはワケがある」


「良かった、ちゃんと別に理由があるのね。さっきの殿下の求愛だけが理由だったらどうしようかと思ったわ」


「まあ、それも理由のひとつではあったが、本題は今度の卒業パーティーについてだ」


 卒業パーティーというと、リアン様たち16歳の年代の魔法学院に通う生徒たちのことね。

 そこでリアン様は私を婚約者として発表すると前々から言っていた。


「予知夢が変わった。あの舞踏会以降、俺の見る予知夢の結果が大きく変化してしまった」


「あの時からあなた、あの日の展開が変わり過ぎててこの後のことが把握できないって言ってたものね。それで、どうなったのよ?」


「……とても厳しい展開になっている。正直、もはや俺には何をどうすればいいのか、もうわからなくなっていた」


「回りくどいわヴァン。もっとちゃんと、はっきり言って」


「ルフェルミア、お前は……このままだとどうあっても……」


 ヴァンが苦虫を噛み潰したような表情をして見せた。


「どうあっても死んでしまう、のね?」


「……ッ」


 ヴァンがその言葉を認めたくないかのように、悔しそうな表情で瞳を閉じた。


「俺は俺の試せる手段はいくつも試してみた。だが……」


 そうか、ヴァンはもう自分で考えられる行動は一通り試してみたのね。

 それでもうまくいかなくて、だからこそドラグス王太子殿下にも相談したんだわ。

 よく見ればヴァンの目の下には薄っすらとクマが出来ている。おそらく最近は満足に睡眠を取れていないのだろう。


「私も驚いた。先日、ヴァンが私にどうしても相談したいことがあると言ってきた時の、あの追い詰められた表情を見てな。ヴァンがあんな顔をするなんて初めてだからこそ、私もヴァンの言葉を信用した」


 ドラグス王太子殿下も真剣な表情でそう言った。


「それで……ヴァン。あなたの予知夢について私にも正確に詳細に教えてちょうだい」


「大きく状況が変わった、と言ったな。アレはお前がこのままリアンと結婚する前にお前は死んでしまうということだ」


「逆に私の死期が早まったというのね。具体的には?」


「以前まではリアンとの結婚後、挙式の日までお前が死ぬことはなかった。だが、あの舞踏会の日以降、お前は今月開かれる卒業パーティーの翌日に必ず……死ぬ」


「なるほどね。それでヴァン、あなたは予知夢の中で色んなパターンを試してみたんでしょう? どのくらい、何を試してみたの?」


「以前にも話したが俺の予知夢は一晩の眠っている間に何回見れるか、人生をどれだけ凝縮して見せてくるかはその時次第でかなり気まぐれだ。だが今回の予知夢はもはや毎度卒業パーティーから始まり、その翌日にはお前の死を見せつけてくるだけの予知夢となった。それを一晩の眠りの間に三回、多くて四回見れるかどうかというところだ」


 以前のヴァンの予知夢は舞踏会をターニングポイントとしていた。それが今回は卒業パーティーになったわけね。


「私はどうやって死んでしまうの?」


「……わからないんだ」


「わからない?」


「ああ。俺の夢はいつも大事なところは見せてくれない」


「……とにかく、私の死に様を教えてよ」


「卒業パーティーが終わり、俺もその会場でお前と挨拶をする。そしてお前はリアンと共にそのまま一晩どこかに消える。その日、お前は屋敷には戻らない。俺は必死になってお前の行方を探すが見つからず、夜が明けた頃、魔法学院の裏庭で大量に出血し、絶命しているお前を憲兵が発見する」


「魔法学院の裏庭に予め忍び込んでおく、とかあなたならもう予知夢で試しているんでしょう?」


「もちろんだ。すると今度は別の場所でやはり同じように失血死でお前は死んでいる。その場所は俺が先回りすればするほど毎回ランダムに変わる」


「わかっているだけでその場所はどこなの?」


「魔法学院の裏庭のほか、王宮内の庭園、グレアンドルの厨房、グレアンドル邸の中庭にあるガゼボ、第一大王路の道端、人気オペラの開かれている劇場……と言ったところか。しかもその場所も毎度微妙にズラされたりする。先回りすれば必ずそれらのどこかでお前の死体が見つかる」


 やはりそういう感じか。きっと、なんらかの理由で私の死の様子をヴァンは見つけられないのだ。

 多分これまでのヴァンの予知夢も毎回そうだったのだろう。

 だからこそ彼は私の死を回避できない代わり、未来を変化させる手段を選んで行動してきたのだ。


「ヴァンよ、そこまでは私も聞かせてもらって何度もお前にも言ったが、それだと単純にリアンが犯人ではないのか? 卒業パーティーで無理やりリアンから引き離したりしても駄目なのか?」


「駄目なんだ。俺が試しにリアンからルフェルミアを奪って逃走を試みてみたが、その時も何故か途中でルフェルミアを見失い、結果ルフェルミアは……」


「ふむ……。どう行動してもお前の予想外のところからルフェルミアに死が迫る、ということか」


「だから俺にはもうどうすればいいのかわからなくて……それでドラグスとルフェルミア、お前たちに直接相談しようと思った」


「そうか。その判断は正しい。この行動によってまたお前の予知夢も大きく変化するであろうしな」


「ああ。まさにその通りだ。この話をドラグスにしたことでお前は本来、隣国への視察へ行くはずだった予定をキャンセルし、俺と共にリアンの卒業パーティーに出てくれることになる」


「私もお前と共に警戒にあたる仲間となったが、それでもまだルフェルミアの死の未来はなくならない。だからお前は困っている、と」


「そういうことだ……」


 状況は把握できた。


 ただ、どうしても私が殺される未来が想像できない。これだけヴァンから話をされて、それでも私があっけなく殺されるその理由がわからない。

 私を殺す犯人は一体どれほどの実力者なのだろう。

 少なくともメリア程度の実力者では到底そんなことにはなるはずもない。


 それこそイルドレッド組の首領(ドン)であり、私の父でもあるガゼリアお父様でもない限り。


 魔力値で言えば私の方がお父様よりも強いが、お父様は組を束ねるボスなだけあって、当然恐ろしく強い。

 元々私が産まれるまではイルドレッド最強はガゼリアお父様だったのだから。


 だが予知夢の話を聞く限りお父様が関与しているとは到底思えない。


 一体、私を殺す犯人は誰なのだろうか。



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