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69話 ヴァンからの呼び出し

『大事な話がある。今晩深夜、日付が変わる頃、以前待ち合わせたベグラム地区のあの旧教会跡に誰にも見られぬようにひとりで来て欲しい。 ヴァン』


 そう書かれた一通の手紙が私の自室のテーブルに置かれていた。

 一体何故またあんな場所に、しかも今度は深夜だなんて。

 と、少し不審に思ったが、筆跡はヴァンのもので間違いなさそうだし、何かの罠の様には思えなかった私は、彼の残した手紙に従うことにした。


「予定通り来てくれたか」


 以前来た時と変わらぬ廃墟の中、暗闇からランタンを持ちながらヴァンが現れた。


「一体今日はなに? それに深夜の大王都を女性にひとり歩きさせるなんて、さすがにどうなの?」


 私が呆れ気味に尋ねると、


「大丈夫だ。お前の強さは折り紙つきだし、今夜お前が危険な目にあうことはまずない」


 と、ヴァンはいつもの予知夢で見た、と言わんばかりの物言いをした。

 まあ、そりゃあそうなんでしょうけど、これでも私も一応貴族令嬢なんですけれどね。


「あのねえ、私も一応乙女なの。もう少し気を使ってほしいわね」


「……ん、す、すまない」


 ヴァンが珍しく素直に謝っている。

 そもそもヴァンとこうして二人きりで話すのはあの舞踏会の日以来だ。

 あれからヴァンとは屋敷で稀に顔を合わすくらいでまともに会話をする機会すらなかったからだ。

 それに――。


「だいたいあなたに聞きたいこと色々あったのに、なんで屋敷で私を避けるのよ?」


「屋敷内でお前と仲良く話をするわけにはいくまい」


「そうだとしても避け過ぎじゃない? 遠目で少し目が合っただけで瞬時に逃げてた気がするけど」


「気のせいだ」


 絶対気のせいじゃない。

 目が合った瞬間、ヴァンはまるで不意な攻撃をかわすかの如く、異様なほど俊敏に私から隠れていたからだ。

 大方予想はつくけれど、少し揶揄ってやろうかしらね。


「ふふーん。あなた、もしかして私と話すのが恥ずかしいんじゃないのー?」


「なっ、ち、違う!」


「いいのよいいのよ。あなた、この前、盛大に告白してくれたものねえ。それで恥ずかしくなっちゃったんでしょー?」


「べ、別に俺はそんな……お前を避けていたわけじゃない。リアンや屋敷の者たちに見られるのはまずいと思ってだな」


「うふふ。それはわかるけれど、それにしても避け過ぎだって。あれじゃあからさま過ぎよ」


「……っく」


「ほらー。言い返せないじゃない。どう? 図星なんでしょー? ほらほらあ」


 あー、面白い。

 こいつ最近やたらと表情が変わりやすくなってるから、弄りがいがあるわあ。


「ああ、そうだ、図星だよ。悪いかッ!? 仕方がないだろう!? 俺はお前が……ルフェルミア、お前のことが好きなんだ。この気持ちは変えようがない!」


 うぐッ。

 だ、駄目ね。面と向かってどストレートに言われるとこちらにもダメージが飛んでくるわ。


「べ、別に悪くはないけれど。だからってあんな風に避けなくてもいいじゃない! あれじゃあまるで嫌われてるみたいで……」


「ほう? なんだルフェルミア、お前、俺に嫌われたくなかったのか。くっくっく、だったら最初からそう言えば良かっただろう」


「なっ、ちがっ……! 別にそういう意味で言ったんじゃなくて……ッ!」


「ふ、ふふん。案外お前も、俺のことがす、好きなんじゃないか?」


 くうぅぅぅぅッ!

 なんで私が追い詰められてんの!?

 っていうか私は別にこんなやつのことなんて……!


「はあ!? あなたのことなんて別に好きでもなんでもないですけれど!? あなたなんかよりもリアン様やドラグス王太子殿下の方がよーっぽど男らしくて優しくて好きだものッ!」


「そ、そう、なのか……」


 あれ?

 もっと言い返してくるかと思ったのに、想像以上にヴァンのやつ、肩を落としてガックリしてる。

 い、言い過ぎちゃったかしら?


「ははは、それは光栄だね」


「ふえッ!?」


 私がヴァンと夢中で話し合いをしていると、廃教会の物陰から、ヌッとドラグス王太子殿下が突然現れた。


「で、殿下!?」


「やあルフェルミア。久しいな。舞踏会ではキミとは会えなかったからな」


 何故ここに殿下が!?

 っていうか私の勘、鈍り過ぎ!

 こんな近くまで他人が接近してるのに気づかないだなんて。

 本当にヴァンが絡むと私の感覚、ポンコツになり過ぎだわ……。

 これじゃあヴァンと話し合いをしてる時に不意打ちでもされたら私、あっさり死ぬんじゃないかしら。


「ドラグス、思ったより早かったな」


「うむ。王宮での執務が思ったより早く片付いてな」


 それにしてもこれは一体どう言うことかしら?


「ヴァン、説明してちょうだい」


「ああ。実はな――」


 そうして私は今夜、ヴァンの口からとんでもない事実と可能性を聞くことになるのだった。





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