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67話 情報交換

 王家の舞踏会が開かれてから更に数日。


 私がグレアンドル家に住み込んでから二ヶ月以上が経ち、いよいよリアン様の通っていた魔法学院の卒業パーティーの日まで残り一ヶ月を切った。


 リアン様はあの舞踏会の件をそれ以上詮索してくることはなく、それからもリアン様は私に変わらず優しく接してきた。

 例の就職先の事業とやら(おそらく闇カジノ)の件で相変わらず忙しそうではあるが、それでも数日に一回は私を買い物や食事に連れて行ってくれた。


 エルフィーナ王女殿下に関しては、以前リアン様と一緒に外に出てドレス選びをしたあの日以降、外で彼女に会うことはなかった。

 おそらくリアン様がエルフィーナ王女殿下を上手いこと言いくるめたのだろう。


「……で、今日こそは多少良い情報はあるんですの?」


 私の部屋の中で、まるで我が物顔のようにソファーでふんぞり返っている聖女様ことメリアが上から目線でそう言い放った。


「そうね。なんでもサフィーナ王女殿下はハリス王子とのハネムーンに隣国へ数週間、行くらしいわ。あの二人は実に仲睦まじくて良好な関係らしいわよ」


「そんなこと、クソほどどうでもいいですわ」


 私の部屋に今メリアがいるのは、あの舞踏会の日に交わした一週間以内に一度以上は情報交換するという契約に従っている為である。


「ドラグス王太子殿下のことなら大した話はないわ。あの舞踏会の日以降、このお屋敷にも来ていないし、ヴァンも彼のことは特に何も言ってないわ」


「ふう……そうなんですのね」


「メリア、あなたの方はどうなの? あなたの方がヴァンとドラグス王太子殿下に接触しやすいんじゃない?」


「こう見えても案外私は聖女のお仕事が忙しいんですの。それに夜は別のシノギもやっていますし。だから私もアレ以来ドラグス王太子殿下とお話しできてませんのよ」


「ふーん、そうなのね。それでその闇カジノの方でリアン様とはどうなの?」


「彼は今ちゃくちゃくと色々なコネを広げておりますわね。新しく賭場を立ち上げる為にまずは場所を確保するところから必要で、それには色んな関係者との繋がりが大事になってくるんですの。もう今のところは近いうちに駄目になりますし」


「今のところ? ってどこなの?」


「他言無用ですわよ? 私が毎日祈りを捧げている大聖堂の地下施設ですわ」


 それには結構驚かされた。

 まさか最も聖なる場所の地下にそんな欲望渦巻く賭場があるだなんて。


「なんというか、呆れた背徳感ね……」


「この闇カジノも色々問題があるんですわ。この大王都で合法として認められているカジノとは違って、非合法なレートと薬物も取り扱っているから犯罪の温床になっておりますの。これまで王家には内緒で秘匿に運営されていますけれど、おそらくそれも近々摘発されてしまいますの」


「へえ? 情報でも漏れたの?」


「まあ、そんなところですわね。とはいえそれを知っているのは私を含めたごく一部の人間だけ。現闇カジノの支配人はまだ何も知らないですわ」


「なるほど、一気に制圧して摘発する予定なのね」


「そういうことですわ。だからこそリアン様は別の場所で今の闇カジノの代わりを立ち上げようというわけですわね」


 リアン様は中々大きなお仕事を手掛けようとしているのね。

 それにしてもミゼリアといいリアン様といい、何故こうもカジノ絡みが多いのかしら。

 これは偶然、とは思えないわ。

 あとでヴァンに聞いてみるとしよう。


「ところでメリア。私、結局リアン様からは何も言われていないのよ。舞踏会の件とか。彼は一体何を考えているの?」


「それなんですけれども、リアン様は最近、エルフィーナ王女殿下のところによく行ってらっしゃるようですわね」


「え? そうなの?」


「ええ。最近は私のところよりもそちらに精を出しているようですわ」


 以前までのリアン様は就職活動でメリアのところによく通い、色々と事業の相談をしていたらしいが、最近は違うのね。

 ということは就職活動、という最近の言葉は嘘ということね。私に嘘をついてエルフィーナ王女殿下と密会、か。


「ああ、それとひとつ言い忘れてましたけれど、私、リアン様にあなたが彼の秘密の部屋を狙っている話をしましたの」


「秘密の部屋?」


「ええ。リアン様は自室のどこかに隠し部屋を造っていらっしゃって、そこに彼の様々な資産がしまってあるんですわ。私、リアン様にあなたがそれを狙っていると嘘をつきましたの」


「面倒なことを……なんでそんな嘘ついたのよ」


「あの時は、あなたなんて嫌われてリアン様に振られてしまえばいいと思っておりましたから。まぁ、おそらくそうなるでしょうけれど」


 くすくすとメリアは笑っている。

 彼女とは休戦協定の契約はしているとはいえ、別に仲間になったわけじゃない。

 メリアはそもそも私のことを殺したいほど嫌いだったし、私もメリアのことを仲間だなんてとても思っていない。

 今はただ、互いの利害関係の上で情報交換を行なっているだけに過ぎない。


「でも、リアン様は確実にあなたが何かを狙っていると意識していますわ。それで尚、仮面を被ってあなたと過ごしているのなら、きっと何か薄暗いことを考えていますわね」


「そうかもしれわね……」


「……ま、せいぜい素人なんかに殺されないよう十分注意しなさいな。占い師だか預言者だかの言う通りにならないようにね」


「あら、メリア。私のことを心配してくれているの?」


「そ、そんなわけあるはずがありませんわッ! あなたがこれでリアン様みたいな一般素人に殺されるようなことがあったら裏稼業の間で一生笑い者にされるだけだって言いたいんですの!」


「それって結局私のこと、案じてくれてるじゃない。あなた、案外優しいのね?」


「やっぱりあなたなんか、リアン様に殺されてしまえば良いと思いますわ!」



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