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65話 舞踏会、その後

「ルフェルミア、俺はお前を愛している」


「ヴァン……わ、私もあなたのこと……」


「俺と婚約し直して欲しい」


「……は、はい」


「もう、俺は我慢できない」


「え? あっ!? そ、そんな、こんなところで駄目よ……んん」


「お前の全てが欲しいんだ、ルフェルミア」


「ヴァ、ヴァン……だ、駄目……あっ……」


 ヴァンの手が私の身体を包む。

 彼が少し乱暴に私をベッドに押し倒し、軋む音が響く。

 私に覆い被さった彼の唇が私の眼前にまで迫った、その瞬間――。




「お嬢様」


「ひぃやぁあぁあーッ!?」

「ぬぅおぉおぉおうッ!?」


 ケヴィンの無粋な声で私はベッドから飛び起きた。

 目を見開いて驚くケヴィンを横目に、周囲を見渡す。

 ここはグレアンドルの私の部屋。

 そうか、思い出した。私は昨晩舞踏会を抜け出して、それから屋敷に戻ってすぐ寝ちゃったんだっけ。


「はあ、はあ……あー、驚いた。ケヴィン……なんであなた、こんな朝早くから勝手に私の部屋にいるの……」


「びっくりしたのは私です。私は今日はちゃんと部屋の扉をノックしましたぞ。しかもお嬢様に入りますぞとまで言いました。お嬢様もちゃんと、はいと返事をしておりましたぞ。途中、駄目とか良いとか色々言ってもおりましたが」


 うっわ、ちょー最悪。

 変な夢を見て、寝ぼけながら返事をした気がするわ……。


「はあ。まあいいわ。で、朝から何の用?」


「いえ、昨晩いつの間にか舞踏会からお嬢様たちがいなくなっていたのでどうだったのかと気になりましてな」


 私を気にかけてきてくれたのね。


「ああ、まあ色々あったけれど……ひとまず無事乗り切った、のかしらね。ケヴィン、あなたの方はどうだったの?」


「私は主にリアン様を遠目から見張っておりました。彼の会話なども盗み聞きしてみましたが、やはりルフェルミアお嬢様が舞踏会に来ていることを察していたようです。知り合いの貴族と思われる方々にお嬢様を見たかどうかを聞いて回っていたようですな」


「そうなのね。他には?」


「先日来た聖女様、もといメリアの奴めの件ですな。メリアは基本リアン様と一緒におりました。聖女様として多くの貴族がたから挨拶を求められておりましたな。殺戮の女神が聖女とはとんだ仮面を付けたものです」


 ケヴィンも当然メリアのことをよく知っている。

 彼もあまり彼女のことを良く思っていないのは、メリアのイルドレッド領にいた頃の評判が良くなかったからだ。

 メリアは仕事の対象、要は暗殺相手を必要以上に痛めつけて意味のない拷問で楽しむ性癖がある。その過剰なやりくちで度々トラブルを起こしていたので、問題児扱いされていたからだ。


「ふふ、全く本当よね」


 その理由が実は、ドラグス王太子殿下を振り向かせる為っていう乙女すぎるのが、彼女とのギャップがありすぎて面白いけど。


「とまぁ、そんなところですな。私は今後ともリアン様を陰ながら注視しておきます」


「ええ、よろしくねケヴィン。あ、それとひとつ聞きたいのだけれど」


「なんでしょう?」


「私、最近そんなに実力が落ちたと思うかしら?」


「ふーむ、そうですな。少々以前までのルフェルミアお嬢様の勘の鋭さは失われているように思いますな」


「そう、なのね」


「まあそれでも相変わらずの溢れ出んばかりの絶大な魔力で補ってあまりあるでしょう。お嬢様ほどの闇魔法の使い手なら、それだけでも国宝扱いされますでしょうし」


「ありがと。ところでケヴィン」


「なんでしょう?」


「どうしてそのことを()()()()()()()()()()のかしら?」


「……ふ、む」


 そう。

 彼しかいない。

 ケヴィンしか考えられないのだ。

 メリアが「言えない」と言ったあの元凶。私に関することを身近で知るのはケヴィンだけ。

 そのケヴィンとメリアが繋がっているのか、はたまたそうではないのか。


 まさかケヴィンが私を裏切るなんて考えにくいけれど、私たちの世界ではよくある話でもある。

 一番信用していた人間が、一番自分を憎んでいる、なんてお話なんて、ね。

 私たちは職業柄、いつだって寝首を掻かれてもおかしくない。


「何故、そう、思われるのですかお嬢様?」


 空気が、変わった。

 ピン、と張り詰めた。

 ケヴィンから普段と違う、威圧的な気配を感じる。

 私はベッドに腰掛けていたながらも警戒心を高める。


「何故、だと思う?」


「さて、何故でしょう。よもやお嬢様、私に対してこのようにお思いでしょうか?」


「……」


 私はジッとケヴィンを見据えて言葉の続きを待つ。


「私がお嬢様を裏切っている、などと」


 


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