59話 仄暗い企み【リアン視点】
僕は今、人生において最も上手くいっている時期だ。
ルフェルミアは僕との結婚を楽しみにし、その裏でエルフィーナ王女殿下は僕を溺愛してくれている。
正直なところ、もうさほどルフェルミアに強い興味はなくなっていた。
僕は昔からそうだが、欲しいと思うと他人の物でも何があっても奪いたくなる。
だが一度手に入れてしまうと、急激に熱が冷めていく。
そんな中、ルフェルミアが僕に嘘をついたとわかった瞬間、僕の中でルフェルミアの存在価値が一気にゴミと同じくらいになった。
ルフェルミアは体調を崩して舞踏会にいけないと言っていたが、アレは嘘だと、屋敷を出た直後に僕がいつも就職先の話について世話になっている人から教えられた。
その人とはカテドラル大聖堂に仕える聖女様、メリア・ウィンストンだ。
「リアン様、実はここだけのお話が」
雨が降りしきる中、ひとりで屋敷を出ようとした時、偶然グレアンドル邸の門の外にいたメリアに呼び止められた。
何故メリアがちょうどこのタイミングでここにいたのかはわからないが、彼女は僕にこう言った。
「ルフェルミア様は嘘をついてます。彼女は元気ですわ。おそらくヴァン様と二人で舞踏会に参加されるつもりです」
何故そんなことがわかるのかと尋ねると、
「さきほど、ヴァン様がルフェルミア様の部屋に忍び込んでいるのを偶然見かけてしまったのです。きっと、二人で密かに参加するつもりなのですわ」
メリアはそう答えた。
ヴァン兄様がまた僕のルフェルミアを奪うつもりなのか?
だったら何故最初に婚約破棄などしたのか?
僕を揶揄って弄び嘲笑っているのか?
色々な感情が渦巻く中、メリアが更にこう続けた。
「私はヴァン様が好きです。けれどあの女が……ルフェルミア様が私のヴァン様を奪おうとしているのです」
そんな馬鹿なことがあるはずがない。
ルフェルミアは僕を愛しているはずだと彼女に言うと、
「ルフェルミア様は実に狡猾な女で、最初からリアン様の隠し財産を狙ってリアン様に近づいたのです。リアン様の秘密小部屋の存在を狙って」
と、まさかの言葉を返してきた。
そう、僕にはグレアンドル家の者たちには誰一人話していない秘密がある。
それは僕の部屋の一画に僕が密かに造った小部屋の存在。
そこには僕がこれまで集めた数々の宝石や貴金属類、更には他人の土地や財産の所有権利書類なども数多くしまいこんである。
これはこれまで僕と付き合ってきた多くの令嬢たちから貢がれた物だったり、色々なコネで手に入れた物だ。
僕は卓越したコミニュケーション能力で、女どもに貢がせる術を心得ている。馬鹿な女たちは最初に少し投資してやるとその倍以上に僕へと貢ぐようになる。
あのエルフィーナ王女殿下でさえそうだ。僕の為に、日ごと会うたびに王家に伝わる希少価値の高い宝石などをプレゼントしてくれる。
だから僕は金に不自由していなかった。
でもまさかその存在をルフェルミアが狙っているとは思わなかった。
僕は秘密の小部屋のことをメリアにしか話していない。
彼女は僕の就職先を密かに作り上げてくれている恩人で、その僕の就職先とは裏賭博場、闇カジノの支配人という立場を僕に与えようとしてくれている。
彼女は聖女でありながらその実、裏では大王都カテドラルの大聖堂の地下施設にて、隠れて開かれている違法賭博場のディーラーをやっているとんでもない女だ。
無論メリアの賭博場での姿は、仰々しい仮面を付けて正体を完全に隠している。
僕が彼女と知り合ったのは偶然だ。二年前の僕が14歳の頃に少しだけ付き合っていた伯爵令嬢から闇カジノの存在を聞き、興味本意だけで連れて行ってもらった。
僕はギャンブルなどに興味をそそられることは全くなかったが、ひとりの綺麗なディーラーに目を惹きつけられた。
僕は彼女のことが気になって彼女のことばかりを見ていると他の女ディーラーとは少し違う動きをしていたことが気になり、彼女へとそれを尋ねた。
それがイカサマ行為だったのはあとから知ることになるのだが、それがキッカケになって僕は彼女、メリアとよく話すようになった。
そのうちメリアは僕のめざとさやコミニュケーション能力の高さは人を欺き、騙す才能の塊だと褒め称え、新たな闇カジノの支配人の座を薦めてきた。
僕はミゼリアお母様とは違い、運任せのギャンブルは大嫌いだが、金と女は大好きだ。だから僕はメリアの話に乗った。
16歳で魔法学院を完全に卒業したあと、正式にメリアと共に新たな闇カジノを造る算段を整えている。
とはいえ新たな賭博場を開業する為にはそれなりの準備金もいる。
メリアとかなり仲良くなったあと、僕の個人的資産を聞かれたので僕は彼女を信用し、初めてその隠し小部屋のことを話し、またそこにある資産価値のこともある程度話した。
当然小部屋の場所へ入り方まではいくらメリアといえど話してはいないが。
僕個人が想定以上の財産を持っていることにメリアは驚き、そして僕と組むことを彼女は決めた。
僕と彼女はあくまでビジネスパートナーだ。互いに恋愛感情などはない。
僕が恋愛感情として愛したのは実質、ルフェルミアだけだ。
ヴァン兄様の婚約者として現れた時点で僕はルフェルミアをどうしても奪い取りたい欲望に駆られ、そして上手く行った。
だがまさか、その全てが僕の財産狙いだった?
メリアにそう言われ、しかし納得できる部分もあった。
ルフェルミアは僕と婚約関係になると、しきりにミゼリアお母様のことばかりを探ってきた。
始めは自分の義理の母になるわけだから気になるのだろうな、と思ってミゼリアお母様の薄暗い行動について話していたが、今考えるとルフェルミアはグレアンドル家の資産や財産を調査していたのかもしれない。
そう考えると一気にルフェルミアへの熱が冷めた。
反対に資産価値の高いエルフィーナ王女殿下と早急に親密な関係になりたいと、僕はこの舞踏会の間で考えを改めた。
もし今夜、ルフェルミアとヴァン兄様をこの舞踏会の会場で見つけることができたなら、僕はその証拠を掴んでルフェルミアとヴァン兄様に多額の賠償金を請求するつもりだ。
何故なら僕は浮気をされた側のわけなのだから。
つまりこれは逆にチャンスだと考えた。
メリアともこの話をし、僕とメリアは互いにルフェルミアたちを探しながら舞踏会を色々な意味で愉しむことにしたのである。




