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57話 リアンの狙い

「となると、ルフェルミアもリアンとの結婚は本意ではないのか。それなら尚のこと私からリアンに言うべきだな」


 ドラグス王太子殿下はだんだんと冷静さを取り戻し始めた。

 逆にこちらは色んな告白を受けまくって心臓バクバクなんですけれど。


「いや、待ってくれドラグス。ルフェルミアとリアンの仲は割かないでもらいたい。あいつらの結婚は……必要なことなんだ」


「ヴァン、お前はリアンを大事に思ってそう言っているのか? よくわからんが何故そうまでしてルフェルミアとリアンをくっつけようとする?」


「それが……ルフェルミアにとっての幸せになるから、だ」


「それはどういう意味だ?」


「リアンはその……類い稀なる知識がある。このカテドラル中央区の領主を引き継ぐのは俺よりリアンの方が相応しい。だからルフェルミアはリアンと結婚した方が幸せになれるんだ」


 これはヴァンが考えた嘘ね。

 でもおそらくこんな言葉では……。


「ヴァン、貴様のそんな気持ちが逆に悲劇を招くと何故わからん? そんな気持ちでルフェルミアが本当に幸せになれるとでも? ルフェルミアはどう見ても貴様のことが好きだろう。そうでなければこんなリスクを犯して貴様と二人だけで舞踏会になど出ない」


「いや、あいつは……別に俺のことなどなんとも思っていない。ただ、俺のわがままを聞いてくれただけ、だ」


「何を素っ頓狂ないことを。そんな馬鹿な願いをわざわざ聞くやつがいるか。ルフェルミアはお前のことが好きなのだ。何故わからない?」


「違う。あいつはその、俺の……」


 そう、ヴァンの予知夢に従って行動しただけ。

 だけれど……。


「まさか貴様、自分よりリアンの方が優秀だからリアンにルフェルミアを預ければ彼女が幸せになるなどと思って、わざわざ婚約破棄をしたのか!?」


「そ、そんな感じ、だ」


「なっ、なん……なんという愚かで大馬鹿者なやつだ……。お前みたいな馬鹿は初めて見た」


 ドラグス王太子殿下が呆れていると、くすくすと笑い声が通路内に響く。


「ごめんなさい、思わず可笑しくて」


「サフィーナ、お前が笑う気持ちもわかる。こいつは……ヴァンは私が想像していたよりも遥かに大馬鹿者だったからな」


「ええ、それもあるのですけれど。皆様、リアン様のことを誤解されていますわねー、と思ってしまって」


「どういう意味だサフィーナ?」


「リアン様はヴァン様と違って、素晴らしいほどに純粋なおかたですわよ」


「そうなのか? 私にはとてもそうは見えないが……」


「それはお兄様が(きよ)い意味で純粋だからですわ。リアン様は禍々しい意味で純粋なのですわ」


「な、なに?」


「彼は自分の欲望の為だけに動いていますわ。他人の気持ちなど、まるでゴミ以下のようにしか考えておりません。全て自分が、自分だけが気持ち良くなるように、どうすれば自分だけが気持ち良くなれるかだけを必死に、純粋に、ただそれだけを強く願って生きているのですわ」


「サフィーナ王女殿下。そんな言い方をしないでほしい。俺の弟は確かによくわからないところが多いが決してそんな……」


「甘いですわね。ヴァン様もドラグスお兄様も。そんなことではいつか必ずリアン様に足元をすくわれますわよ」


「お、おいサフィーナ。いくらなんでも我が友の弟に対してそれは言い過ぎだ」


「ドラグスお兄様がどう思おうと勝手ですわ。でもこれはあくまで私からの忠告。リアン様を甘くみないこと、ですわね」


「……サフィーナ王女殿下。ひとつ、聞きたい。舞踏会開始の頃、リアンがあなたに何かを囁いていたはずだ。あの時、あいつは何をあなたに伝えたんだ?」


「ふふ。リアン様は私に、今日もしルフェルミアさんとヴァン様がこの舞踏会に参加しているのがわかったら教えて欲しい、と言われましたの」


 リアン様がそんなことを!?

 まずいわ。そうなると私たちが思っている以上にリアン様は、すでに様々なことを怪しんでいる……!?


「そ、それは本当なのか?」


「ええ、ヴァン様。まるでこうやってあなたがたが来るのを事前にわかっていらしたかのように、ね」


「それでサフィーナ王女殿下。あなたは俺たちが今日ここにいることをリアンに伝えるのか?」


「いいえ、そんな無粋な真似は致しませんわ。ただしヴァン様にひとつお願いがございますの」


「なんだ?」


「リアン様とルフェルミアさんを結婚させないでくださいませ」


「な、何故だ?」


「何故ってそんなの決まっていますわ。リアン様の思い通りにさせたくないからですわよ」


「それはどういう意味だ?」


「彼がなんでもかんでも思い通りになると思っているのが私には気に入らない。ただそれだけですわ。だから、別にドラグスお兄様やヴァン様たちに肩入れするわけではないですけれど、今回の件についてはリアン様には全て内緒にしておきますわよ」


「む、むう……」


 ヴァンが困った顔になっている。

 私とリアン様の結婚は私の死を回避するルートだからそれをしないのは中々に難しいのよね。


「……サフィーナ。お前、何が見えている? ヴァンがリアンを理解できないように、私もお前のことがよくわからない」


「さあ。私はただ今宵の舞踏会にてハリス様と結ばれることを盛大に祝福してもらいたい。ただそれだけですわ。それでは私はこれで失礼しますわね、お兄様、ヴァン様」


 サフィーナ王女殿下はそれだけを言い残してその場から去って行ってしまった。



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