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50話 断罪完了

「とりあえず理解したわ。さて、ミゼリア。あなたにはいくつか選択肢があるけれど、聞きたい? 聞きたくないを選んだ場合、殺しはしないけれど一生目も見えず耳も聞こえない人生にさせてもらう」


「き、聞くわ!」


「そう。じゃあ選択肢ひとつめ。このまま王宮へ自ら出頭し、罪を認めて自首する」


「そ、そんなことをしたら私は……グレアンドル家は……」


 へえ。一応まだグレアンドル家のことを思う気持ちはあるのね。


「ふたつめ。ここで遺書を残して自害する。あなたが借りている借金はあなたが死ねばチャラになるものでしょう? これなら誰にも迷惑をかけずにあなたは自分の汚点を全て片付けられるわ」


「い、いや……いやよ。わ、私はまだ、し、死にたくない……う、うぁう、あぁ、ああぁぁ……」


 顔を震えさせながらついにはボロボロと泣き始めてしまった。

 どうやらようやく罪の重さと自分の立場を理解してきたようね。


「最後のみっつめ。今日あったことを全て忘れて、明日以降も何事もないように過ごす。ただしこれには条件があるわ」


「な、なに!? なんでも聞くわ!」


「今後、私を見下さないこと。そして私に関する一切のことを他言しないこと。この二つだけを守れたら、明日からのあなたの生活を保証してあげるわ」


「そ、そんなことでいいの?」


「勘違いしちゃ困るけれど、あなたは本当に運がいいのよ? 私は今、とある制約のせいで人殺しを封じているだけなの。本来ならあなたなんてさっきナイフを構えていた時点で八つ裂きにしていたわ。この私に殺意を向けて生き残った人なんてひとりもいないの。私の言ってること、本気なの、わかるよね?」


 ぶんぶんとミゼリアは首を縦に振る。


「だからさっきの二つの条件を飲むならあなたの命を奪わないし、今後もあなたのことを役人に密告することもしないわ。あなたは晴れてこれまで通りギャンブルと酒に溺れていなさい」


「う……ル、ルフェルミアさん、し、知っているの、ね……」


「ええ。闇カジノに入り浸って毎晩遊び呆けて、そして他の貴族たちから借金をしまくっていることも、ぜーんぶ、ね」


「……ごめんな、さい」


「別に私に謝ってもなんの意味もないわ。あなたが謝るべき相手はドウェイン様や子供たちへの方じゃないかしら? ま、どうでもいいけれど」


「あ、あのルフェルミアさん。私はこれからどうすれば良いの……?」


「そんなこと知らないわよ。勝手に借金まみれになってのたれ死ねば? って言いたいところだけれど、仕方ないから少しだけなんとかしてあげるわ」


「なんとかって……?」


 私は胸ポケットから一枚の紙切れを取り出す。


「これは……なに、かしら?」


 それは、竜がまるで貼り付けにされているような構図の黒い刻印がされた一枚の紙。


「その紙は一枚で金貨何十枚分もの価値があるわ。私にとっては意味のない代物だけれど……私たちイルドレッド家以外の者には凄い価値のものよ。それを今一番直近でお金を支払わなくてはならない貴族へ渡しなさい」


「こ、こんなものでどうにかなるの?」


「なるわ。でもそれ以上の詮索は駄目。その紙を渡して、これでなんとかして欲しいとだけ言いなさい。必ず相手の貴族は了承するから」


「わ、わかったわ……」


 私が渡したその紙切れはご贔屓様用の暗殺無料許可証と言って、その紙を私の父に渡せば本来莫大な費用を取って請け負う仕事を、無料で請け負うのである。

 つまりイルドレッド家である私には一銭の価値もないのだ。

 その上ミゼリアが今借金している相手の貴族のことはリアン様から以前に聞いていて、すでによく知っている。その貴族は裏事情にも精通しているので、我がイルドレッドのことも当然理解しているのだ。


「繰り返すわ。先ほどの紙のことも今日ここであった全てのことも他言は一切禁止。もしあなたの口から漏れることがあれば、おそらく私以外の者があなたを必ず殺しにくるわ。言っている意味、わかるわよね? あなたはもう私なんて個人ではなくて大変なものを敵に回しかけているの。わかるわよね?」


「は、はい! はい!」


「うん、随分と素直になってくれて嬉しいわ。それじゃあ明日以降もまたこれまで通り義母と娘の関係を持続しましょ。あと、ギャンブルはほどほどになさい。ドウェイン様が可哀想よ」


「わ、わかりましたルフェルミア様……」


 お、私に様付けしてきたわ。随分立場をわきまえたようだけれど。


「私には今まで通りさん付けにして。おかしいでしょ? あなたの態度がおかしくても私はあなたに罰を与えなくちゃいけなくなるから、理解してね?」


「は、はい! ごめんなさいルフェルミアさん」


「よろしい。じゃあちょっと待ちなさい」


 私はミゼリアの折った指を彼女の痛みがまだ無いうちに、ゴキン、ゴキン、と、元の形くらいには戻してやった。


「折れた指の形だけは戻したけれど、魔法が切れたらかなり傷んで腫れると思うわ。でもそれはあなたへの罰だからその痛み、忘れないでね。その程度で済んでいるって考えてね。ちなみにそれも階段で転んだとでも言いなさい。いいわね?」


「はい、わかりました……」


 さて、っと。これでいいか。

 まあ、でもだいたいヴァンの言う通りになったわね。


『俺が去った後、ドウェインお父様に呼ばれ、その後にミゼリアお母様がお前を殺そうとしにくる。だがまあ、安易な殺意だ。お前は難なく対処するだろう。その後なんだがお母様には多少痛い目に合わせて、今日のことを黙っておいてもらうよう脅しておけ』


 全部、ヴァン、あなたに言われた通りにしたわよ。

 これでミゼリアお義母様も私に無駄に絡むこともなくなるし、借金についても多少余裕ができるでしょう。


 あー、疲れた。

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