46話 魔力球遊び
「「おおッ!」」
ヒュンッと勢いよく魔力球が空高く翔んだ。
私が投げた白球は一瞬で目視不能なほど、空へと吸い込まれ、やがて20秒ほどして球は自然落下により戻ってきて、庭の地面へとドスッと埋まった。
「かなり長い時間飛んでいたな。確かにこれは魔力の測定としては中々面白い。単純な女性の筋力であの長時間、球が翔んでいることなどあり得ないからな。いやはや、さすがは魔力の高いと噂のルフェルミアだ」
ドラグス王太子殿下が拍手すると、その場にいた者たちが同じように私を褒め称える。
「どれ、私にもやらせてくれ」
ドラグス王太子殿下が嬉々として私が投げた魔力球を地面から取り出す。ちょっと以外だったのは、誰かに取らせるとかではなく、自ら土に手をつけるような真似を王族の癖にするんだ、と思った。
「私とて王家の端くれ。それなりに魔力を備えてはいる。……こんな感じで魔力を込めれば良いのかメリア?」
「はい、ドラグス殿下。お見事でございます」
「よし、では投げてみる。むぅんッ!」
ぶんッ、と力強く白球が真上へと放り投げられた。
確かにドラグス王太子殿下にもそれなりの魔力があるのはひと目見てわかった。ヴァンたちグレアンドル家の者よりはハッキリ魔力が高い。
「ああ、もう戻ってしまったか」
ドスン、と白球は再び地面へと突き刺さる。約15秒と言ったところか。これはこれで十分凄いことだ。
魔力球を魔力無しで成人男性が投げると約6〜7秒ほど、筋力が相当高くても10秒がいいところ。それ以上は魔力による影響がほとんどだ。
「ルフェルミアにはかなわないか。キミは凄いな。次はヴァン、お前もやってみろ。こんな遊びはやったことがないだろう?」
「俺は別に……ドラグスだけでいいだろう」
ヴァンだけはプライベートの際、殿下のことを呼び捨てで呼ぶ。それらが彼らの仲の良さをうかがわせる。
「そうつまらんことを言うな。ほら、やってみせろ。私より長く翔んだら明日は仕事を休んでメリアと一日デートに行ってきでいいぞ」
「……ふう。わかった」
あ、ヴァンのやつやるのね。あいつ、こういうのは絶対やらないと思ったのに。
ふーん。そんなにメリアとデートに行きたいんだ。
ちょっと内心でモヤモヤしながら、今度はヴァンが同じように白球に魔力を込めた。と言っても彼が込められる魔力は本当にごく微弱。込めたかどうかすらわからない。
「いくぞ」
そう言ってヴァンも球を真上へと投げた。
筋力の高いヴァンも球は相当高く翔んだ、が。
「あー、やはり戻ってくるのが早いな」
ドラグス王太子殿下がそう呟く通り、球は約10秒ほどで戻ってきてしまう。その上ほとんど魔力が込められていないので、球の落下地点もだいぶ離れたところに落ちてしまった。
「やはりヴァン、お前にはほとんど魔力がないな。わかってはいたが見てみたかったんだよ」
「ドラグス、わかっているならやらせるな」
「ははは、すまん。だが、お前はそれでも随分高く翔んでいたぞ」
それから魔力球遊びが何度か繰り返され、侍女や使用人たちも混ざって遊んでいた。普通の魔力をあまり持たない侍女や使用人たちは2〜5秒が平均といったところだった。
なんだかんだとドウェインお義父様もドラグス王太子殿下に言われ、投げさせられた。ドウェインお義父様も魔力は低く、8秒程度しか翔ばなかった。
「む、そういえばメリア、お前は投げていないじゃないか」
「え? 私は別に大丈夫ですわ。ルフェルミア様の魔力を見てみたかっただけなので」
「まあ余興だ。お前も投げてみろ。それにおそらくこの中だと聖女であるお前が一番高く翔びそうだ。見てみたい」
ドラグス王太子殿下の感覚は合っている。聖女の光属性魔力はずば抜けている。彼女が投げれば相当高く翔ぶだろう。
「そこまで仰るのなら、失礼して。それでは少し、本気で投げさせてもらいますわ」
メリアは私の方を見て薄く笑った。
そして白球を持ち、魔力を込め、
「行きます」
ヒュンッ! と空高くへ白球を放った。
球は凄い速度で上昇している。一瞬で目視は不能なほど高く舞い上がる。この高さは明らかに私よりも翔んでいるわ。
やがてしばらくして球が戻ってきた。
その時間、およそ25秒。
「いやあ、さすがだな! ルフェルミアよりもだいぶ長く翔んでいた。聖女の名は伊達ではないな」
「いえいえ、今日はルフェルミア様の体調が優れなかったのかもしれませんから」
「謙遜するな。聖女メリアの魔力、圧倒的だった。無論、ルフェルミア、お前も凄かったぞ」
「ありがとうございます殿下」
私とメリアは同時に礼を告げて頭を下げた。
頭をあげる瞬間、メリアの目が冷たく私を見ていたことに気づく。これは怒っているな。
「さて、無駄に遊んでしまったな。ドウェイン卿、庭を汚してすまなかった。私とメリアはそろそろ帰ろうと思う」
「そんな殿下。せっかくですからお泊まりになられてはどうです?」
「ドウェイン卿の気遣い、痛み入るが私は明日も朝から公務に追われていてな。早くに休まなければならない」
「さようでございますか」
そうしてドラグス王太子殿下と聖女メリアは、そこで簡単な別れの挨拶を交わして、その日はお開きとなり彼らはヴァンが護衛のもと帰路についた。
去り際にメリアが私の耳元でこう囁いた。
「暴虐が猫を被って気持ちが悪いですわね。その吠え面をかく日が楽しみですわよ」
私は「そっくりそのままお返しするわ。殺戮の女神様」とだけ返して、私たちは別れた。




