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44話 同胞、聖女メリア

 ダイニングに着くと、ドウェインお父様とプリセラだけがテーブルについていた。

 やはりリアン様とミゼリアお母様は帰ってこないようだ。


「私も席に失礼致します、ドウェインお義父様、プリセラ様」


「うむ。元気そうだなルフェルミア」


「はい。おかげさまで」


 ドウェインお義父様と顔を合わせてお話しするのはとても久しぶりだ。

 まともに話したのはあの婚約破棄の晩以来ではないだろうか。


「やっほールミ(ねえ)


「ふふ、相変わらず軽いわねプリセラ」


 プリセラはニヘラニヘラと笑いながら手をふりふりしていたので、私も釣られてニヤけてしまう。


「なんだ? 随分仲が良くなったのだな、お前たちは」


 ドウェインお義父様が少し目を丸くして私たちのこと見ていたが、プリセラも私もなんとなく笑って濁した。

 しばらくすると侍女二人が「お見えになりました」と言って、ダイニングへとヴァンたちを引き連れてきた。

 私はそこで初めて会う王太子殿下はどんな方なのだろうかと期待していたが、それ以上に驚かされることになる。


「みんな、わざわざ集まってくれたのか」


 ヴァンが上着を抜いで侍女にそれを手渡しながら、私たちを見て言った。


「久しいな、ドウェイン卿」


 ドウェイン様の姿を見るやいなや、そう声を発した男こそドラグス王太子殿下だ。

 淡いグリーンの髪色にややつり目の、けれどもこれまた端正な顔付きをした凛々しさ漂うこの国の王太子。

 彼も上着を脱ぐと王族の刺繍がされた立派なお召し物をのぞかせた。


「ドラグス王太子殿下、お久しゅうございます。此度は我が屋敷にようこそおいでくださいました」


「ドウェイン卿、畏まらなくていい。今日はただの友の食事会に招かれただけなのだからな」


 ヴァンとは違い、言葉にこそ威厳はあるもののその口調と態度は実に柔らかく、巷で聞く「聖人ドラグス」は、その言葉の通りだと思った。

 けれど、それよりも何よりも私が驚きのあまり声が出なくなった理由。それは――。


「っと、ヴァン、ドラグス殿下、そちらは?」


 ドウェインお義父様が疑問に思ったもうひとりの客人。


「初めまして、ドウェイン様。私はカテドラル大聖堂につとめ太陽神カテドラを主とし、この身を神に捧げた者、メリア、と申します」


 ひと目で彼女が聖職者なのはわかった。純白のローブに金の装飾がところどころにされたいわゆる聖衣を着用していたからだ。

 頭にも白と金を基調としたヴェールを被っており、そのヴェールから整えられた黒く長い髪がのぞかせている。

 問題なのはそうではなく――。


「メ、メリア様!? まさか聖女様がいらっしゃるとは……おい、ヴァン、これはどういうことだ?」


 そう、彼女はこのカテドラル王国にたったひとりしかその存在を許されない聖女様なのである。

 聖女はお役目が終えるその日まで、基本はずっと大聖堂に籠り太陽神への祈りを続けている。これは単なる宗教的な象徴なのではなく、聖女には聖女たるゆえんの力があるからだ。

 聖女の力とは言ってしまえば異常に強力な光属性魔力のことでもある。


「メリアも……俺の友達、だ」


 ヴァンは相変わらず言葉少なにそう答える。


「ドウェイン卿、驚かせて申し訳ない。メリアを強引に誘ったのは私なんだ。実はここだけの話、彼女はヴァンにぞっこんでね」


 ドラグス王太子殿下がヴァンを親指で指さして、皮肉を言うと、


「違う、そんなことはない」


 ヴァンは顔色ひとつ変えずに否定していた。


「嫌だわドラグス王太子殿下。そう言うご冗談をいきなりドウェイン様がたがいらっしゃる前でされないでくださいませ」


「ははは」


 彼らのたわいもないやりとりが彼らの仲の良さをうかがわせるが、そんなことはどうでもいい。


「ドウェイン卿、そちらの見目麗しい方々のご紹介をしていただけると嬉しいな」


「そうでしたな、申し訳ないドラグス殿下。これが私の娘でプリセラ。そしてこれが……」


 ドウェインお義父様が私を紹介しようとした時。


「知っておりますわドウェイン様。ルフェルミア様、ですわよね」


 聖女様が口を挟んだ。


「なんだメリア、お前はヴァンの弟の婚約者のことを知っていたのか。私はヴァンから話を聞いていたからある程度は知っていたが、お前が知っているとは思わなかったぞ」


 ドラグス王太子殿下が不思議そうに言うと、


「はい。そうですわよね、ルフェルミア様?」


 聖女の顔をした悪魔が私を見て微笑んでいる。


「は、はい」


 私は思わず視線を逸らして答えた。


 何故、彼女がここにいるのか。

 彼女は、聖女メリアは……。


 私の同胞だ。



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