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43話 王太子の来訪

「あら、おはようございますわリアン様。もうお出かけですか?」


「あ、うん。おはようルフェ。そうなんだ、最近就職先のことで相談してる人がとても親切で、僕にも良い仕事場が見つかりそうなんだ。その人から今日は朝から来いって呼ばれてね。今日は更にいつもより帰りも遅いから、ルフェは先に寝ていておくれ」


 とある日。


 リアン様は朝食も取らずにそう言い残して屋敷を出て行った。

 何やら最近は本当に忙しそうだ。

 リアン様、一体どういう仕事に就く気なのだろうか。

 と、私がエントランスで思っているとガチャリ、と一階の廊下の奥で扉がひとつ開いた。

 あの部屋は確か。


「だから、私は今日も遅いから気にしなくていいわよ!」


「ですが奥様……」


「うるさいわねえ! 放っといてちょうだい!」


 何やら口論していたのは久々に見たミゼリアお義母様と侍女頭のエレナだった。

 ミゼリアお義母様はエントランスにいる私に気づいていたが、目も合わせないようにしてズンズンとエントランスまで来ると、そのまま無言で玄関から外へ出て行ってしまった。


「おはようエレナ」


「あ、おはようございますルフェルミア様」


「どうしたの? 何だか朝から騒がしいけれど」


「え、ええ。ミゼリア奥様、いつも帰りが遅いのですが今日は少し手の込んだ料理を作るので早めに帰ってきてくださると嬉しいのですが、と伝えたら怒ってしまって」


「ああ……仕方がないわよ。ミゼリアお義母様は」


 ギャンブルにハマりまくってるから。なんだけれど、やっぱりこの屋敷の人たちは何も知らないみたい。

 知っているのはヴァンとリアン様、あとはおそらくプリセラ様の子供たちだけかしらね。ドウェイン様は全く気づいていないみたいだし。

 そんなミゼリアお義母様は、いつも夜遅くまでお茶会で仲の良い夫人たちとおしゃべりしてるだけってことになっている。


「それよりエレナ、今日は何故手の込んだ料理を作るの?」


「今日は夕刻より、ヴァン様がお客様をお連れになるからです!」


 お客様……?


「えっと、それは誰かしら?」


「ドラグス王太子殿下ですよ!」


「ええ? それは本当なの?」


「はい。ヴァン様が今専属で護衛していらっしゃるのがバルバドイ国王陛下ではなくドラグス王太子殿下の方で、彼らは昔からすごく仲がいいんです。歳も同じですから、お友達のような感じなのでしょう。ごくたまにこうして、お屋敷にお連れになることがあるのです」


「そんな話、私聞いたことないわ」


「ああ、ルフェルミア様はほら、ヴァン様とは……アレですもんね」


 ああ、そういえばそうだった。

 私とヴァンは仲違いしてるってことになってるんだったわ。


「とにかくそういうわけですので、ルフェルミア様も今晩のお食事会にはぜひ。ドウェイン様も早く帰ってくると仰っていましたので」


「わかったわ」


 ドラグス王太子殿下、か。

 ヴァンの護衛対象だとは聞いたことがあるけれど、家に招待するほど仲が良いなんて言うのは初めて聞いたわね。

 一体どんな人なのかしら。



        ●○●○●



 時は過ぎ、夕刻。

 今日は特に何の用事もなかったので、私は自室でひとりで鍛錬をして過ごしていた。たまには体を動かさないと鈍ってしまうし、美味しい料理がたくさん出るんじゃお腹も空かせておきたかったからだ。


 それにしてもグレアンドル家に住み込んで早一ヶ月と半分ほど。

 先日のヴァンから誘われた舞踏会について私はまだ戸惑っている。

 ヴァンは予知夢で見たことを参考に私を誘ってくれているのだろうけれど、私にとってはデビュタントと同意義ですらある初の舞踏会。

 それをヴァンと共に出る、というのが不思議と嫌な気分はしなかった。むしろリアン様と出席するよりも楽しみにしている自分がいる。

 この感情に戸惑ってしまっているのである。


「ルフェルミア様、そろそろヴァン様がお客様を連れてお見えになりますのでダイニングの方へいらしてください」


 なんてことを考えいたらエレナが私を呼びに来た。

 もうすぐヴァンたちが帰ってくる。

 屋敷内で、他の者たちがいる前で堂々とヴァンと顔を合わすのは凄く久しぶりだ。今宵は一体、どういう食事会になるのだろう。



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