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42話 ターニングポイント

「あなたもなんで窓から来たのよ……」


「昼間だから、だ」


「どうして昼間だと窓から来るのよ?」


「少し話がしたいからだ」


 相変わらずこの男は言葉が足りないわね。

 私は頭を抱えながら彼を部屋に招き入れた。


「今日は屋敷の者がいる。リアンも。ルフェルミアの部屋の扉からルフェルミアの部屋に入るのが目撃されると面倒なことになる。先ほどケヴィン殿がこの窓から出て行っただろう。それはここの窓がちょうど屋敷の者たちから死角の位置で人目につきにくいからだ」


 ああ、そうなのね。

 それにしたって窓って。ここ三階なのよ。


「っていうか、あなた仕事は?」


「休みを取った。そんなことよりルフェルミア。お前に話がある」


「そうでしょうね。それで、何?」


「一週間後に王家主催の舞踏会がある。それに俺と出ろ」


 うーん、と?


「ドレスはすでにあると思うが、あのブラックのドレスは駄目だぞ。もし他のがなければ事前に俺が買っておく。遠慮なく言え。お前ならワルツもタンゴもクイックも踊れるだろう。きちんとメイクもしておけ。それから」


「だあああーッ、ちょっと待ちなさいよ! 色々おいてけぼりにするんじゃないわよ!」


「む?」


「む? じゃないわよ! 最初からきちんと説明して! どういうこと?」


「どうもこうもない。舞踏会の話はリアンから聞いているだろう。それに俺と出ろと言っている」


「その時点で質問が盛りだくさんなのよ! 順を追ってきちんと話して!」


「ふう、仕方がない。予知夢を見た。お前がこのままリアンと舞踏会に参加するルートは……駄目だ」


「まあそんなことだろうとは思ったけど。駄目だっていうのはなに、私が死ぬってこと?」


「……かも、しれない」


「なんか曖昧ね。その日に死ぬんじゃないの?」


「その日、ではない。ただ……お前とリアンがパートナーでその舞踏会に出るルートは、その先がどうやってもうまくいかない、気がする」


 こいつ、やっぱりこの前から……。


「あなた、本当はもう私が死ぬ日がわかっているのね?」


「う……」


「私がショックを受けないようにこの前から誤魔化しながら話してるんでしょうけど、わかるから。あなた、口下手すぎるし、嘘も凄い下手なんだから」


「う……」


「ほら、どうなの!? その辺はっきり言わないなら私はリアン様と舞踏会に出るわよ」


「……そうだ。お前が死ぬ可能性がある日が、俺にはわかっている」


「ほら、やっぱりそうなんじゃない。そういうのきっちり言ってくれなきゃ私だって困るわよ。で、なに? 私がリアン様と舞踏会に出るとなんで私は死ぬわけ?」


「さっきも言ったがその日じゃない。その先、しばらくしてリアンとの挙式を終えたあと、だ」


「なんだ、まだ随分先の話なのね」


「そんな先でもない。もう二ヶ月を切っている」


「はいはい。で、私はどうして死ぬわけ?」


「わからない。わからないが、ここ数日、予知夢のスタートポイントが舞踏会から毎回始まっている。おそらくあの舞踏会が分岐ポイントだと考えてる」


 ふむ、なるほど。

 ヴァンの予知夢はどうやらヴァン本人もうまくコントロールできるわけじゃない。

 前回聞いた話と統合すると、どうやら予知夢の始まりには何か意味があるっぽい。

 今のヴァンの言い回しだと、予知夢が毎回舞踏会から始まるのはその舞踏会に何かがあると告げている、と考えられる。


「ここ数日、俺は何度も試した。だがうまくいかなかった」


「私がリアン様との挙式後に必ず死ぬのね?」


 ヴァンがこくんと頷く。


「昨日ようやく糸口を見つけた。一週間後の舞踏会に俺と出た場合、お前はリアンとの挙式後も生きていた。ひとまず夢はそこで終わっていた」


「なるほど。でも困ったわね。リアン様と出るって約束しちゃったわよ」


「当日に断れ。そして俺と出ろルフェルミア」


 ヴァンの真剣な眼差しにドキッとさせられる。

 でもよく考えるとコイツが言ってるのは別に私が好きだから、私と出たい、とかじゃなくて単純に私の死を回避する為っていう理由なのよね。


「ば、馬鹿なこと言わないで。そんなことしたら大変よ? あなただって、自分と私が一緒にいる理由をなんて説明するの? 婚約破棄した男がなんで元婚約者と舞踏会に出るのよ。色々おかしなことになるわ!」


「安心しろ。今回の舞踏会は仮面の着用が許可されている」


 ――仮面舞踏会。

 それなら確かに受付以外には私とヴァンだとはバレないかもしれない。


「じゃあリアン様はどうするの?」


「当日、お前の体調が悪いということにして屋敷で休むと言え。そうするとリアンは仕方なく一人で行くことになる」


「それでうまくいくならいいけど……」


「俺の夢ではそれでなんとかなった。そういうわけだから、当日は体調が悪いふりをしておけ。ではな」


「あ、ちょっと!」


 それだけを言い残してヴァンは再び窓から立ち去って行ってしまった。


 はあ。

 なんだか嫌な予感がするわ。



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