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2話 厄介な義母

 ――こんな成り行きとなってしまった流れは酷くお粗末な内容で、文面にするならば完結に三節でまとめられる。


 ①婚期なのでお見合いをした。(させられたとも言う)


 ②公爵令息のヴァン様と懇意になり互いに婚約を了承し、結婚に備えて早くから同棲を始める為に私はついひと月程前からグレアンドル家に住み込んだ。


 ③同棲が始まり一ヶ月ほど経った昨晩、私ルフェルミアはヴァン様から突然婚約破棄を申し渡されたがその直後、代わりにヴァン様の弟君であるリアン様と懇意の仲となった。そんでもってその事が即座にバレた。


 と、まぁざっくりこんな流れである。 


 私は地方の貧乏田舎貴族である男爵家のひとり娘で、18歳の誕生日の日に父から婚約者候補が現れたからその人と会えと言われ、その人と出会い、話し、そしてとんとん拍子に婚約が決まっていった。


 私の住むヴェルダース地方は、たくさんの貴族たちが住み国王も住まう大王都(だいおうと)カテドラルからは実に遠く離れたところに位置し、行き来するのに馬車で軽く十日(とうか)はかかるほどの辺境だ。


 そして私の婚約相手であるヴァン・グレアンドル様が住むお屋敷はまさにその大王都カテドラルの中心部にある。

 そんな遠距離では当然、婚約相手とのデートの回数も限られる。そんな私たちの恋心が冷めてしまう事を懸念した私の両親は、私にグレアンドル家に住み込めと命じた。


 それについてグレアンドル家としても賛成だという事で、強制的に私は大王都カテドラルに移り住む事となり婚前同棲が始まったというわけだ。


 しかしこのグレアンドル家にはまた厄介な人物がいて、私もこのお屋敷にやって来てからというもの散々な目に遭わされてきた。


 噂には聞いていたけれど、なるほど、これは中々に良い趣味、趣向をしていらっしゃるわねと思わされた最初の出来事は、私がこのお屋敷に住み込んだ初日に起こった。


「ルフェルミアさん、ちょっと来なさい」


 すぐに冷酷な口調で私の名を呼びつけてきたのはミゼリアお義母様である。


「全ての衣服をこの場で脱ぎなさい」


 ミゼリアお義母様の部屋に呼び出されたと思うや否や、唐突にそう言われた。

 何故かと尋ねると、私の身体を隅から隅まで確認して不出来なところはないか、怠慢な肉付きをしていないかなどの確認をするのだそうだ。

 私は「はい」とだけ返事をし、命じられるがままにする。


 そして全裸となった後、魔力調査の為に私の体液の採取をするのだと言った。

 体液として提供する必要があるのは、血液と尿だそうで、私はこうして他人の親にいきなり裸にさせられ、注射器で血液を取られ、更にはお義母様の眼前で尿をさせられるという恥辱を受けさせられた。


「ふん、大したことのない身体ね。こんなことで男を喜ばせられるのかしら」


「そうですね」


「……気に食わないわね。何故そんなに平然としていられるのかしら?」


 とはいえ私はこの命令に対し、特に抵抗も見せずに従ってみせた。

 かえってそれがミゼリアお義母様の癇に障ったらしい。その問いに無言でいると、パシンッと直後に私の頬を引っ叩かれた。


「少しはしおらしく恥じらいを見せてはどうなの!? 生意気な顔ね!」


 こんな嫁ぎ先のお屋敷で、いくら義理の親になる相手とはいえこんな恥辱を味わわされてはどんな淑女も冷静になれるはずがない――。


 そういう目論見もあったのだろうが、生憎私はそうはならなかった。だからついには暴力で訴えてきた。

 私は裸のまま、ミゼリアお義母様に木剣であちこちを幾度となく打たれた。もちろん、衣服を着てしまえばその傷が他者に見られる事のないような部位ばかりを狙って。


「はあッはあッ……! ふん! 少しは反省したかしら!? これに懲りたら私の前でそんな不遜な態度は取らないことね! そうでなければあなたなんていつでも追い出せるのよ? わかっているのかしら? あなたごとき貧乏男爵家の娘が公爵家に嫁入りできるなんて、今後二度とないんですからね!」


 私は蹲ったまま震え、顔を伏せていた。決してその表情を見せないように。


 そうしているとミゼリアお義母様が私の衣服を投げつけてきて、さっさと着替えて部屋に戻れと命じたので、私は言われた通りにした。

 チラリと横目でミゼリアお義母様を見るととても満足そうな表情をしていたのが窺えたことですぐに理解ができた。

 なるほど、こうやって愉しんでいたのね、と。



 ――これが初日の出来事。



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