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27話 珍騒動の終わり

 さて、困った王女様相手にどう対処しようかしら。

 さすがに王女様を痛めつけるのはなんだか可哀想だしなあ。


「しかもあなた、実は何かを隠しているでしょう?」


 と、私が対処に悩んでいると王女殿下はなおも言葉を続ける。


「何か、とは?」


「とぼけても無駄ですわ。あなた、さてはその右手に毒物を仕込んでいますでしょう? 先ほどから見ていましたわよ。その右手に仕込んだ毒針か何かで私のゲイルに何かしたのでしょう!?」


「お待ちくださいエルフィーナ姫様! それだけとは限らないかもしれません」


 側近であると思われるジャンが彼女の隣で助言している。


「なんですって? 何故そう思うのジャン?」


「あの女はなんというか……なんか、その……硬いです!」


「は? 硬い?」


「はい、とてつもなく硬いのです! 顔を殴りかかった俺の手の方がやられてしまったのです!」


「それでジャン、あなたも右手をおさえているんですのね。なるほど……全てわかりましたわ」


 エルフィーナ王女殿下はジャンの言葉に耳を傾けた後、再び私へと向き直した。


「田舎貴族の芋女とは仮の姿。その実、あなたの正体はリアン様をたぶらかそうと画策する悪しき魔女。その名も硬き魔女ですわねッ!!」


 ――硬き、魔女。


「いえ、私にはルフェルミアという名前がありま……」


「お黙りなさい硬き魔女!」


 ――硬き、魔女。


「失礼ながら私は硬くもありませんし、魔女でもありませ……」


「お黙りなさい硬き魔女! あなたのことはまるっと全てお見通しですことよ」


 ――硬き、魔女。


「私はその昔、じいやから聞いたことがあるんですの。大王都より遠く離れた辺境の地には魔族の血を引く魔女が今も人間社会に紛れ込んでいるということを。その魔女は怪しまれずに人々へと這い寄り、そしてその命を奪うとッ! つまりあなたはリアン様の命を狙う、硬い魔女なのですわ!」


「……ひ、姫様。その、俺が言った硬い件はどういうことでしょうか?」


「魔女には様々な特殊な力があると聞きますの。この者は硬さだけが取り柄なのですわ。だから硬き魔女ですのッ!」


 ――うん。なるほど、まったくわからんッ!

 私があの側近のジャンとゲイルの立場だったらそうとしか思えないのだけれど。


「「なるほど!」」


 ようやく痛みが引き始めたのだろう。そのゲイルとジャンが本当に「なるほど!」と言ったような顔でなるほどと納得していた。

 なるほど、さすが側近。忠実。実に忠実ね。


「姫様、そろそろ戻りませんと陛下に怒られます。お忍びで城下を巡るのは二時間までと申しつけられてます」


「あら、大変。仕方がありませんわね、今日のところはここらでお(いとま)いたしますわ。けれどあなた、よく覚えておきなさい! また次にリアン様をたぶらかそうと近づいた時は今度こそ容赦しませんわ。あなたを人間の敵として騎士団にひっ捕えてもらいますわ。いいですことね、硬き毒針の魔女!」


 エルフィーナ王女殿下はそう、言いたいことをひとりで言い尽くしたあと、ジャンとゲイルを引き連れてその場を去って行ってしまった。


 どうやら私の名は『硬き毒針の魔女』に進化したようだ。

 ――なんなのかしら、これ?

 あの王女様、本当に頭のネジがやばいわ。相当箱入り娘に育てられてしまったんでしょうね。

 っていうか、途中からなんだか少し面白くなってしまって、ついつい彼女の言葉を聞きたくて黙ってしまったわ。ある意味恐ろしいわね。

 それにしても前世が魔女王である私に魔女とは、あながち大はずれでもないところがまた凄いのよね。


 と、そんなくだらないことを思いながら、いまだに地べたでよだれを垂らしてくたばっているリアン様に近寄り、彼の背を持ち上げて声をかけることにする。


「リアン様、リアン様。しっかりなさってくださいリアン様!」


 私はペシンペシンとやや強めに彼の頬に平手を食らわせてみたが、薄ら白目を剥いたまま目を覚そうとしない。

 それにしてもこのリアン様は中々に面白い顔だわ。できるなら記念のお写真でも撮りたいぐらいね。

 そんなことはさておいて、このままでは仕方がない。()()をやりましょう。


「少し我慢してくださいね、リアン様」


 私は右手の魔力を光属性へと変化させ、光属性の魔力粒子を集合させる。

 そしてその手の平をリアン様の目元に被せて『気付けの魔法』を流し込む。

 気付けの魔法は本来、光属性の上位魔法に位置し、高位の神官など神の祝福を受けた聖女にしか扱えない。が、無論そんな魔法ですら私の手にかかれば造作もなく扱える。


 さて、そろそろ効いてくるはず――。

 そう思うと同時にリアン様の身体がビクビク、っと痙攣し、


「はぅあッ!?」


 と、ヘンテコな声をあげて目覚めた。


「い、いてて……なんだか目がバチバチする……」


 気付けの魔法は目の辺りを強く刺激するので、やられた者は結構強い痛みと共に目覚める。


「お目覚めになられてよかったですリアン様! 私、リアン様が死んでしまったんじゃないかと思って心配で心配で……」


「う、うん。大丈夫だよルフェ。それにしても僕は一体何をしていたんだ……?」


 私は記憶が混乱しているリアン様に、暴漢が襲ってきたけれどリアン様が戦ってくれて撃退してくれた、相打ちでリアン様も気を失った、と適当なことを言っておいた。



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