24話 好都合
「な、なんだキミたちは!?」
リアン様はすぐにベンチから立ち上がり、私の前で私を庇おうと両手を広げた。
リアン様は本当にお優しい方ね。
だって、どう見てもリアン様より屈強そうな男たち二人が威圧感たっぷりで接触してきたというのに、こうしてか弱い乙女である私を守ろうとしてくれているのだから。
「僕に何をしても構わない。だが彼女に指一本触れてみろ。僕の大魔法がお前たちを屠ることになるぞ!」
少し震えながらもリアン様は男たちの目を見据えて虚勢を張って見せている。
きっとリアン様は彼らのことを暴漢か何かだと思っているけれど、これは違うわね。
だって彼らからはなんというか、敵意などは感じられずむしろ義務感でこれをやっている、という雰囲気が察せられたから。
「う、うるさいぞ。そこをどけ!」
などと悠長に構えていたら、屈強そうな男のひとりにリアン様が突き飛ばされた。
リアン様は「うあッ!」と呻き声を出して、レンガの敷き詰められている地面へと転がされる。
その時、リアン様を突き飛ばした男が少し焦ったような表情をして見せた。
「お、おい、やりすぎだぞ」
「違う、今のはつい……」
男たち二人のそんな会話が聞こえる。
――ふーん、なるほどね。
「……わ、私たちをどうするつもりなんですの? 怖いことはやめてくださいませ」
私は少し怯えた素振りを見せつつ彼らへと尋ねる。
「どうするって……その、あれだ。あ、あんまり公の場でイチャイチャされるといい迷惑……じゃなくて、ムカつくんだよ!」
「え……? 何故あなたがたがムカつくんですの?」
「う、うるさいぞ女! だいたいお前はなんなんだ!?」
「ひい、怖い。ど、怒鳴らないでください。なんなんだと言われましても、私なんてしがないただの地方の男爵令嬢ですわ……」
「歳はいくつだ!? 小柄な感じから、まだ14歳くらいか?」
「いいえ、これでももう18ですわ」
「18歳の男爵令嬢、だと。どこの出身だ? お前みたいな女は見たことがないって言っていたぞ!」
「見たことがない? それは誰が言っていたんですの?」
「あ……いや、その……い、いいから出身を言え!」
私にはこの男たちの正体が薄々わかってきた。彼らはおそらく――。
「ぅぉ、お、おォオオオオオオッ!」
「ぐお!?」
と、その時。
ひとりの屈強な男が背中を突き飛ばされて、その場で勢いよく転がされた。
「ルフェから離れろぉッ!」
リアン様が必死な形相で男のひとりに体当たりしていたのである。
「大丈夫か、ルフェ!」
「あ、はい。私よりリアン様の方が……」
「僕はなんともないさ。それより逃げよう!」
リアン様は私の手を掴んでそう言うが、
「ま、待て待て! まだ聞きたいことがある!」
屈強そうな男のひとりが私たちの前へと立ちはだかる。
「そこをどけ! 僕は決して暴力なんかには屈しないぞ!」
「くそ、しつこいなこいつ……。お前のことは後回しで良いと言われているんだ。今はその女に話があるだけなんだよ!」
「ルフェに一体なんの用があるというんだ!?」
ああ……リアン様。
先ほど軽く突き飛ばされてしまった時に鼻を打ってしまったのか、鼻血が出てしまっているというのにこんなにも勇ましく私を守ろうと……。
その心意気には感服致しましたわ。
「ルフェ、というのか。そこの女」
「ええ、ルフェルミアと申しますわ」
私はリアン様越しに答える。
「行こうルフェ! こんな奴ら放っておいて!」
リアン様が再び強引に私の手を引っ張っていこうとすると。
「だから待て!」
屈強な男がリアン様の肩をガシっと掴んだ。
「リアンとやら。お前はこのルフェルミアって女とどういう関係なんだ?」
「しつこいぞ! 僕は彼女の婚約者だ!」
リアン様が怒鳴り気味にそう答えると、男たちは目を見開いて驚きを隠さずにいる。
「な!? こ、婚約者、だと……」
「まずい、まずいぞゲイル。どうする?」
「どうするも何もジャン、お前だって言われてるだろう? こいつらの仲を引き裂けって」
二人の男たちはボソボソと小声で会話していたようだがあいにく、私は聴力も優れている。その会話がはっきり聞こえてしまっていた。
「や、やるしかないか」
「ああ……こんなこと、本意ではないが……」
彼らの雰囲気と小声での会話の内容で私の考えはほぼ確信に至っていた。
彼らのボスはおそらく……。
「ぐあッ!?」
と私が思うと同時に、それまでリアン様の肩を掴んでいた片方の屈強な男、ゲイルと呼ばれていた男がついにリアン様の背後から首周りに腕を絡めて、リアン様の首元を締め始めた。
「うぐ……は、はな、せ……」
必死に抵抗試みるもリアン様はみるみる顔色を鬱血させている。そして、すぐにかくん、と首をもたげて気を失った。
「よし、いいぞジャン!」
「男は眠ったな、ナイスだゲイル!」
リアン様を眠らせたゲイルは、リアン様を地面へと転がした。
「くっくっく、男さえ眠らせちまえばこっちのもんだ。おい、女。お前には色々聞かせてもらうぜ」
っていうか、ナイスなのはむしろこちらね。
私はそう思いながら、今度はリアン様の代わりに彼らの前へと立ちはだかる。




