22話 リアン様とデート
大王都カテドラルはその名の通り、とてつもなく大きな都市だ。
その中央部にはとても大きなお城といくつかの建物が集合した王宮があり、この王宮は一周ぐるりと大きな城壁で囲われている。
その城壁から東側にある二本の路地を挟んだその更に東の道には、多くの馬車や通行人が行き来する大通りがある。
この通りをカテドラル第一大王路と呼び、その王路沿いにはたくさんのお店が所狭しと並んでいる。
「うわあ……ここはすごい人ですわね、リアン様」
「ルフェはこの通りに来るのは初めてかい?」
私はリアン様からデートに誘われ、今こうしている。
別に彼とこうして出かける行為なんてどうでもよいが、ヴァンの言葉通りなら私はなるべくリアン様とは仲良くしておいた方がよさそうだからだ。
……ま、それにケーキは大好物だしね。
「はい。私、カテドラルにやって来てからはほとんどお屋敷におりましたし、ミゼリアお義母様に命じられて外出させられた時も、お買い物はお屋敷付近の所にしか行かせてもらえませんでしたから」
「全くミゼリアお母様も無意味にキミの行動を縛って、どうしようもないね。今まで助けてやれず、本当にすまなかった」
「いえ! 今はもうリアン様のおかげで自由ですから、もう気にしていませんわ」
「それならよかった。……っと、着いたよ。このお店だ」
リアン様に連れられ、私はオシャレで可愛らしい外観をした丸太を組み合わせて造られたデザート屋さんにやってきた。
お店の外にはオープンテラスもあり、そこでケーキと紅茶を楽しめるようになっている。
私はリアン様のおすすめのケーキを注文し、そのテラスの一角で腰をおろした。
「わあぁ……すっごく美味しいです、このケーキ!」
「そうだろう? 僕もこれが大好きでね。そうだ、キミはイチゴが好きだと言っていたから僕のを食べさせてあげるよ」
「うわあ、いいんですか?」
「もちろん。ほら、口を開けてあーんってしてくれる?」
「はぁい。あーん……」
私とリアン様はまるで本当のカップルのように仲睦まじく、ケーキを食べていた。
本当だったら昨晩には暗殺していたはずなのにと思うと不思議な気分だ。
しかしこんな恥ずかしい行為、仕事だと割り切っていなければ絶対にできない。
って言っても今の現状は仕事なのかもはやよくわからないけれど……。
とりあえずケーキは美味しいし、ケーキに罪はない。ここはこれまでのご褒美としてお腹がはちきれんばかりにケーキを貪ってやるんだから。
「それにしても僕が一番怒っているのはヴァン兄様だよ」
ケーキを食べ終えて、紅茶を啜りながらひと息ついた頃に突如リアン様がそう言い出した。
「ヴァン様に、ですか?」
「そうさルフェ。兄様はキミを婚約者として我がグレアンドルに連れて来たのだろう? その癖、キミのことを全く顧みず、仕事以外の時は毎日自室に篭ってばかり。一体あの人はなんなんだ? あれではミゼリアお母様よりタチが悪い!」
リアン様はギリギリ、と歯を食いしばって怒りを露わにしている。
「まあまあリアン様。落ち着かれてくださいませ」
「キミは凄いよ。あんな状態でよく我慢してきたね。しかもそのことを文句ひとつ言わずに。僕なら耐えられない。許せないよ!」
「でも嬉しいですわ。私の代わりにリアン様がこうして怒ってくださっていますもの」
「……くそ、ごめんねルフェ。僕にもっと力があれば兄様やお母様なんて実力でねじ伏せてやるのに。兄様なんか、この手で殴り殺してやるのにッ」
殴り殺すとは穏やかじゃないわね。
「お母様だってそうさ! あんな非人道的なことばかりをルフェに……。親でなければ僕が絞首刑送りにしてやりたいところだ。できるならこの手で八つ裂きにしてやりたいほどさ!」
絞首刑に八つ裂き、ね。
リアン様は穏やかだけれど、時折こうして見せる狂気さが少し気になるのよね。
それがグレアンドル家の血筋なのかしら。
それにしてもこの感じ……。
「落ち着いてくださいリアン様。それよりそろそろ他に行きませんか? 今日はここ以外のところにも連れて行ってくださるのでしょう?」
「あ、ああ、そうだったね。今日はキミの為に有名な観劇のチケットも準備しておいたんだ。ここから歩いてすぐの劇場へいこう」
そう言われて私は彼にエスコートされながら、観劇が見れる劇場の方へと歩き出した。
――やっぱり尾行けられているわね。




