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20話 悪夢の予知夢【ヴァン視点】

 ――もうやめてくれッ!


 俺はほぼ毎晩、うなされながらそう叫んで目を覚ます。

 早朝にこうして目覚めるたびに背中が汗でびっしょりになってしまうくらい、俺の夢は容赦がない。


「はあッはあッはあッ……!」


 いつもの予知夢だ。


「……ルフェ、ルミア」


 頭をぐしゃぐしゃと掻きながら、俺は彼女の名を呟き、そして彼女の死に様を思い返す。

 何度見ても、何度見させられても吐き気がする。

 汗と気持ちの悪さをリセットする為に、俺ことヴァン・グレアンドルの日課は朝のシャワーを浴びることから始まる――。



        ●○●○●



 俺の予知夢は必ずルフェルミアの死を見せつけてくる。

 初めて予知夢を見たのは7歳の時。

 その時見た夢は、俺が大人になるまでのグレアンドル家の人々と過ごす人生を体験し、そして20歳になる時、自分より二つ歳下の婚約者、ルフェルミアが現れることを示した。


 俺が夢の中でその婚約者とグレアンドルの屋敷で過ごしていると、ちょうど同棲を始めて一ヶ月後に、屋敷の庭で血だらけで息を引き取る寸前となり倒れているルフェルミアを見つける。


 そして俺の腕の中で苦しそうに彼女は死んだ。


 その時の俺の感情はぐちゃぐちゃだった。

 だが、目覚めるとまだ7歳の自分で安堵した。


 しかしその翌日から毎晩同じ夢を見せられ、夢の中で何もせずにいると必ず決まって同じ日に同じようにルフェルミアは死んだ。

 彼女が死ぬと同時に俺は必ず目を覚ます。

 目が覚めて安堵はするのだが、直後に強烈な焦燥感に駆られる。


 ――ルフェルミアを救え。さもなくばそこでお前の人生も潰えるぞ。


 そういう風に言われているような感覚を覚える為だ。

 とある日、夢の中での行動を変えると夢の中での結果が変わることに気がついた。

 初めて試したのは自分の指を斬り落として見たことだ。


 あまりに幾度もルフェルミアの死を見せつけてくる夢を見るのが嫌になって、これがまた夢だとわかった時、ルフェルミアが婚約者としてやってきた時に試しに自分の指を一本ナイフで切り落としてみた。

 こうすれば嫌な死に様を見せつけてくる夢から目覚めるんじゃないかと思った。


 さすがは夢だ。痛みは正直なかった。だが指がなくなったことで家族やルフェルミアの対応が大きく変化し、流れが大きく変わった。その時の結果もルフェルミアは死ぬのだが、死に方ががらりと変わったのだ。


 侍女頭のエレナに毒物を仕込まれた紅茶を飲まされて、彼女は血を吐き出して突然死んだのである。

 幼い頃の動き方でも大きな変化を加えると予知夢も大きく変化することがわかった。


 ――それから俺は何度も人生をやり直すかのように、夢を見る時は多種多様な行動をしてみることにした。

 俺の知る者たち全員や知らないその他多数の者たちから、ルフェルミアはなんらかの方法で殺される。俺と婚約し、同棲を始めた一ヶ月後に。それも予想外の手段や方法で。

 彼女を手にかけたことがないのは唯一、俺自身だけだった。


 その中で初めてルフェルミアの生存が延びた日があった。俺と大喧嘩をした時だ。


 夢の中での人生に悪戦苦闘し、夢の中とはいい中々言うことを聞いてくれなかったルフェルミアに苛つきを覚えて思わず「お前なんかとは婚約破棄してやる!」と感情のままに怒鳴り上げてしまった。

 すると何故かその翌日、妙にリアンと仲良く話す彼女が屋敷の庭にいて、気付けばあいつらが婚約関係になった。


 その時だけ、初めてルフェルミアが屋敷に来てから一ヶ月以上生き延びたのである。

 が、それもわずか数週間後にやはり殺されてしまった。

 だが、初めて夢の続きが見れたのだ。


 その後俺は『婚約破棄』が鍵なのだと考え試行錯誤し、そして導いた結果が今に至る。


「ルフェルミア……」


 シャワーを強く顔から浴びて、嫌な夢をリセットするのが俺の日課。

 予知夢のおかげで無事、ルフェルミアが今回の死のさだめから回避することができた。

 リアンと挙式を行なう三ヶ月後のその日まで彼女は生存し、そこで予知夢は終わっていた。


 これで全て解決した。彼女も死なず、我がグレアンドル家も大きな不幸になることもない。


 ――そう、思っていた。



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