18話 初めての任務失敗
翌朝の早朝。
といってもあのまま眠ることなど出来ず、私はそのまま自室で夜明けを迎えた。
正直、色々なことがありすぎて混乱しているが何よりもショックだったのは、初めて私の計算通りに仕事をこなせなかったことだ。
私は必要な暗殺はこれまで100%、成功させてきた。失敗なんてしてこなかった。
それがあのヴァン・グレアンドルのおかげで、この人生において初めての失敗とさせられてしまったわけだ。
まあ彼の話だとリアン様を手にかけても私は死ぬらしいからどうにもできないのだけれど。
もしもヴァンがあれほど完璧に私への対処、対策をしていなければそんな話は信じなかった。
おそらくそれらも全て計算ずくでこうなるようにヴァンが考えたのだろう。
まるで私の人生自体を壊されたような気分だわ。
……正直、すっごい腹立つ。
あんな男に私の先をいかれているのが気に入らない。
あんな――。
『俺はもう、お前を死なせたくないんだ』
……ナーヴァみたいなセリフを。
それにしても何故ヴァンはここまでするのだろう?
私が死んでしまうことがグレアンドル家の崩壊に繋がるかもしれないから?
でも彼は私が死んだ後の予知夢は見れないと言っていたわよね。憶測だ、みたいなことを言っていたけれど、なんだかよくわからないわね。
万が一彼も前世の……ナーヴァの記憶が戻っていて、私のことを気にかけていたり……?
いえ、それはないわよね。そうならそう言ってくれた方が話が早いし、私の最初の問い掛けに対して彼は本当に何も覚えていなさそうだったもの。
……今は考えるだけ無駄ね。
夜明け前に私の部屋へと連れてこられたケヴィンは、ヴァンが部屋を去ってから少しして目覚めた。
全ての説明をするのは難しいし、素直に話したところでおそらくケヴィンからすれば「お嬢様は騙されています」と言うに決まってる。
普通に考えれば、ヴァンの話はほとんど作り話だと考えるのが妥当だ。
しかし私には前世の記憶が蘇ってしまった。だからなのか、ヴァンの言葉のほとんどをすっかり信じてしまっている。
というより、あの予知夢の話でも聞かされなければ、私への対策が万全すぎる説明がつかないというのが本音だけれどね。
とはいえ、ケヴィンにそれを説明するのは難しい。
なので私は仕方なくこう言うことにした。
「な……!? お、お嬢様、それは本気で仰られているのですか!?」
「ええ……。私、どうやら本当にリアン様のことをす、好きになって……しまったみたいなの」
私はリアン様のことを本当に好きになったことにし、今回の計画は中止、つまりミゼリアお母様の軽犯罪の証拠をイルドレッド家に持ち帰るのをやめてもらうことにした。
ただ、それだとガゼリアお父様に言い訳がつかないので――。
「だからね、ケヴィン。私がグレアンドル家に嫁いで、それでリアン様と一緒にミゼリア・グレアンドルを見張りながら矯正していくわ。彼女は所詮金絡みで動いていただけみたいだし、私が裏でうまく工作すればこれ以上の犯罪には手を染めないと思うの」
「し、しかし旦那様……いえ、首領にはなんとお話しすれば良いのですか!?」
「お父様には、また追って私が直接出向くと伝えておいてくれないかしら?」
「此度の仕事をまっとうせず、そんなことを伝えた日には、私が殺されてしまいますよ!」
「うーん、まあそうよね……。あ、じゃあこうしましょう。ケヴィンもここで一緒に暮らすの」
「な、なんですと? お嬢様、一体何を?」
「あなたはイルドレッド家の私専属の執事で、私のことが心配だからここで一緒に住み込んで働くことに決めた、ということにしてしまうのよ」
「そ、そんな強引が通りますか!?」
「ドウェインお義父様には私から話を通すわ」
「こんな家のことなどどうでもよいです! 首領の方でございますよ! 一体なんと伝えれば良いのですか!?」
「ガゼリアお父様には……今はまだ連絡しなくていいわ。めんどくさいからほっときましょ」
「な、勘弁してください。殺されますってマジで」
「あら、大丈夫よ。私は」
「お嬢様が平気でも私は殺されます!」
「その時は私が庇うから、ね? それに今回の任務はガゼリアお父様から同棲してから半年以内にこなせば良いとだいぶ時間に猶予をもらっているもの。まだ五ヶ月は余裕だわ。だからその時になったら考えましょ」
「で、ですが……っ!」
「へーき、へーき。なんとかなるって。話はヴァン・グレアンドルにも合わせてもらうから、ね?」
「なんてことだ……」
ケヴィンは真っ白な髪の毛をぐしゃぐしゃと掻き乱して、困り果てた顔をしているけれど、ひとまずはこれでよしとしよう。
ケヴィンがここにいてくれた方が何かと便利だし。
あとは私が殺さずを貫きながらリアン様と仲睦まじく生活を送ればいいわけね。
不安はたくさんあるけれど……ね。
と、こうして私は仮初だったはずのグレアンドル家での生活が本格的に住み込むこととなってしまったのであった。
「私の命もあと五ヶ月でございますね……絶対に首領に殺されてしまいます……うぅ」
ケヴィンが泣きべそを漏らしていた。




