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13話 唐突な脅し

 その声にハッとさせられる。


 書架の影からしたその声の主がゆっくりとこちらに歩み寄ってきた。


「調子はどうだ? ルフェルミア」


 私は思わず布団を頭からすっぽりを被り込んだ。


 ヴァン・グレアンドル!


「おい?」


「……ッ」


 何を恥ずかしがっているのかしら、私は。

 別に前世がどうであろうと今には関係がない。

 でも、もしも彼も前世の記憶が蘇っていたら……?


 そう考えると彼の顔を見ることができないッ!


「おいルフェルミア……」


「近寄らないでッ!」


 私は思わず声を張り上げた。


「う……そ、そうか」


 なんでかわからないけれど、心臓が爆発しそうなほど早く鼓動していて、とてもじゃないけれどヴァン・グレアンドルとまともに会話できそうにない。


 と、そこでふと思い出した。


 私はヴァンの心臓を破壊しようとして、それから気を失ったんだった。

 でもあれは一体どういうことなんだろうか。何故私の魔法は失敗したのだろう。


「とりあえずそのままでいい。話だけでも聞け」


 相変わらずぶっきらぼうな物言いをして、彼は私のベッドの近くに腰掛けたようだ。


「率直に言おう。俺はお前にもう人殺しをさせたくない」


 やっぱりヴァン・グレアンドルは私の裏の素性を知っているのね。

 そうなるとこいつは確実に消さなければならない。

 しかしこいつは一体何者なの? 彼にも前世の記憶があったとしても現世の私の、今の裏稼業について彼が知る由もないはずなのに。


「様々な憶測が頭の中を巡っているだろうが、俺はお前の敵ではない。説明は難しいが……お前はこのままだと近い将来殺される」


 は? 私が殺される?

 こいつは何を言っているの。


「……それは脅しのつもり?」


 私は布団の中からそう尋ねる。


「違う。俺はお前のことが心配なのだ。俺はお前のことを……その、案じて、だな……」


 なにそれ。

 どういうこと?

 もしかして、やっぱりこいつにも前世の記憶が、ナーヴァの頃の記憶が戻っていたり?

 そうだとしたら私はどんな顔でこいつと会話すればいいの?

 ああー! もうじれったい!

 直接聞いた方が早いわ。


「ね、ねえ。あなたはヴァン・グレアンドルよね?」


「む? そうだが」


「もしかしてあなたも、その……む、昔のことを思い出しているの? その、前世、というかなんというか……」


「昔? いや、違う」


 違う?


「……じゃ、じゃあなんなのよ?」


「……言ってもどうせ信じない」


「いいからさっさと言いなさいよ!」


「おい、ルフェルミア。お前、なんだか以前より荒っぽいぞ」


「うっさいわね! これが素の私なの! それよりさっさと教えなさいよ」


「どうした? なにか怒ってないか? お前は細いから栄養不足で脳に血液が回っていないんじゃないのか?」


「はあ!? 怒ってないわよ! っていうか、あなたがよく私に細いなんて言えたものね!?」


「何を言っているんだ。どうみてもお前は細いだろう」


「あなたが言ったのよ! 私のことをデブだって! この前ダイニングで言っていたじゃないの!」


「む……ああ、あれか」


「忘れたとは言わせないわよ! 他にもブスだの臭いだの散々言ってくれたわよね!」


「はは。あんなの嘘だ」


「はは、あんなの嘘だ。じゃ、ないわよ! なんで笑ったの!? っていうか、どういう嘘なの!? ほんと、意味わからないんだけど!」


「落ち着け」


 落ち着けじゃないわよ、なんなのこいつ腹立つーッ!

 表情はそんなに変えずに、なんでこんなにも私の感情を逆撫でしてくるのかしら!?


「とりあえずさっさと教えなさいよ! なんで私のことなんか案じたの!?」


「今日のルフェルミアは妙にしつこいな」


「あなたがさっさと教えないから聞いてるだけ!」


「だが……言ったところでどうせ信じない」


「な、めんどくさッ!? なんなのあなた!? 信じるから早く言いなさいよ! このボケナス!」


 こいつ、こんなキャラだったかしら。私の知ってるヴァン・グレアンドルとはなんか違うわね……。


「俺は……お前の未来、をだな……その、案じてる」


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