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11話 裏稼業最強の令嬢

 私ことルフェルミア・イルドレッドは田舎貴族、ガゼリア・イルドレッド男爵のひとり娘で、生まれも育ちも大王都カテドラルから遠く離れたヴェルダース地方の更に辺境に位置する小さな領地だ。


 貧乏な田舎貴族というのは建前で、私の家系は裏稼業を生業(なりわい)としている。

 私のものごころがつき始めた5歳の頃。

 その頃から身体全体を覆う暖かいオーラのようなものを常日頃感じていた。それは体内に抑えきれずに溢れ出てしまうほどの絶大な魔力であると父、ガゼリアから教えられた。

 イルドレッド家は代々高い魔力を持つ一族だが、私は特に突出した異例な魔力量だと父は大層喜んだ。


 母はいない。

 私の家族は父と父方の祖父母、それと二つ歳の離れた妹がひとりの計五人だ。母は私のものごころがつく前、妹を出産した直後に亡くなったらしい。


 イルドレッド家には多くの父の弟子がいた。小さな領地経営の他、裏稼業の首領(ドン)でもある我が父、ガゼリア・イルドレッドに忠誠を誓った弟子たちは、仲間でもあり、ある意味家族のような存在でもあった為、母親がいなくても寂しさなどは全くなかった。

 私たちはそんな同胞のことを血は繋がらず実際の姓も違えど『イルドレッド組』と呼んだ。


 そして私は日々、父や組の仲間たちからイルドレッド家の生き方や家訓を叩き込まれ、育てられた。

 結果、私が8歳になる頃にはすでに並の大人顔負けの魔法を扱うようになり、その頃から裏の稼業を手伝い始めた。

 まずは簡単な尾行のお仕事をし、次には調査のお仕事。その次は盗み。と、色々こなしていき、それから生き物の生死に携わる仕事を教えられた。


 まず手始めに魔物を手当たり次第殺すことを覚えさせられた。人畜無害そうな魔物は最初、殺すときに戸惑いを覚えたが、じきにそれも慣れた。

 どんどんと強い魔物を相手にし、そのうち、王国の騎士団が出陣しなくては討伐できないような大型の魔物ですら、私にとっては造作もない相手となった。


 生き物の殺し方を学んでから実際に人を殺すようになったのはそれから二年後。

 10歳の少女を好む変態貴族のもとに潜り込んで、対象を暗殺したのが最初の殺しの仕事だった。


 初めて殺した相手はよく覚えている。とてもゲスな伯爵で、これまでに多くの幼女を強姦し快楽の為に殺害してきたようなクズだ。

 私にも同じような目に合わせる気だったのだろう。ベッドの上でのあの、血走った目は今思い出しても怖気が走る。


 そんなクズでも殺処分した時はさすがにかなり気が滅入った。

 だが父に「これで不幸な死を遂げるはずだった多くの少女たちが救われた」と言われ、私の気の迷いは晴れた。


 それから私の裏稼業での技術は持ち前の絶大な魔力と合わせ非常に昇華され、私はイルドレッド組でも最強の二つ名と共に暴虐などとも称されるような存在になっていった。


 そんな生活が数年続き、気づけば私は女という性別を利用して数多くの仕事をこなすようになった。


 今回のグレアンドル家の件もその一例である。

 今回の仕事も女という利点、つまりは婚約者として公爵家に潜り込み情報を得るだけ、という至極単純な仕事のはずだった。


 それが一体どこで間違ったのか――。


「……ルミア」


 ――ああ、これは夢だな。


 自分でもわかる。そういう時がある。

 自分の生い立ちを走馬灯のように思い返していた時から、私が今夢を見ているのだと薄々気づいていた。

 その夢の中でこれまでの人生には無い存在がいた。

 その存在が私に向かって私の名を呼び掛けている。


「ルミア。次は、必ず()()()()()


 次? ってなんのこと?


「俺は間違えた。俺が弱いから。だから」


 この人の顔はよく思い出せない。けれど、その声が懐かしい。

 懐かしい……?


「だから、キミは強くなれ。次は誰よりももっと、ずっと」


 強くなった。私は強い。


「そして俺がいつか夢に見たように、キミと結ばれる未来に全ての望みをかけて」


 夢……彼の夢……。


「今日、死が二人を別つとも、俺たちの心はいつまでも変わらない。キミを……愛している」


 そうだ、思い出してきた。この人は……。

 この人の名前は……確か……。


「願わくば次の世界ではキミと結ばれる、そんな世界に」


 まだ待って。

 私はまだあなたに伝えていない!

 私の気持ちを、私の想いを、この愛を!

 ナーヴァッ!


「ナーヴァ・グレアの我が名において望む! 我らナーヴァとルミア、二つの肉体を生贄に魂の浄化を!」


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