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9話 裏側を知る者

「ええ、もちろん。それが最後の仕事だもの」


「私が始末してもよろしいですが?」


「いいわよ別に。私がきちんと片付けるから。ケヴィン、あなたは後始末をお願いね」


「さすがお嬢様。リアン様とは少なからず懇意にしていたというのに相変わらずブレませんですな」


 リアン様は私に恋をしている。放っておけば後々面倒なことになりかねない。

 加えてリアン様からは根掘り葉掘りと色々聞きすぎている。彼が私に対していつか何か不信感を覚える可能性もある。

 そういう人物は静かに消してしまうのが私たちイルドレッド家の仕事のやり方だ。


「まあでも、彼だけはそれなりにお世話になったし、せめて苦しませず速やかに息の根を止めてあげるわよ」


 そして彼を処分したあと、私たちはこの情報を持ち帰り父に手渡す。父はそれをもとに様々な裏工作をする。

 その結果は火を見るより明らかだろう。

 グレアンドル家の悪行は世に知らしめさせられ、没落する可能性すらある。


 私はこの為だけによくわからない変な男(ヴァン)と仮初の婚約をし、あんな嫌味な義母がいる屋敷で同棲をして、わざとヴァン様から嫌われるように行動しつつも、リアン様が私に興味を持つよう行動したのだから。


「ルフェルミアお嬢様。もしや、わずかなりともリアン様に心奪われたりされたのですか? 彼には優しくされ、相当に愛されていたようでしたが」


「馬鹿なことを言わないでケヴィン。私が何年この稼業を続けてきたと思うの?」


 そう。

 私がこのような裏稼業を続けてきて、すでにもう10年以上も経つ。

 我がイルドレッド家の稼業。それは表向きは貧乏男爵家の小さな領地の経営だが、その裏では密偵、捜索、潜入から暗殺まで様々な裏の仕事を請け負う闇稼業である。

 私が人を殺めた数だって、両手では収まらない。

 物心がついた頃から、私は父から様々な勉学やスキルを教育されてきた。


 私には()()()生まれつき絶大な潜在魔力を保有していて、まさに裏の仕事をする為に生まれてきた逸材だと父からよく言われていた。


 というのも、私のこの絶大な潜在魔力は体内の魔力タイプや属性すらもコントロールできてしまうほどであるからだ。

 これを利用することでこれまで多くの自惚れた貴族の男たちを、騙し、欺き、誑かしてきた。

 グレアンドル家の者たちは偶然、私との魔力相性が良いと勘違いしているが、それすらも私の術中だったのである。


「確かに。凶悪な大型魔獣でさえルフェルミア様の前にかかれば赤子同然でしたな。暴虐のルフェルミア・イルドレッド様の御手(みて)にかかれば」


「やめてよ、その暴虐っていうの」


「おや、お気に召しませんでしたか。ですがイルドレッドのお屋敷に住まう者たちは皆、暴虐のお嬢と、そう呼んでおりますが」


「もう……私のどこが暴虐なのよ……」


「顔色ひとつ変えずに懇意にしていた相手を、魔物、人間問わず冷静かつ速やかに暗殺をこなしてしまわれる方にはピッタリのお名前かと」


「別に仕事だからやってるだけで、私は好きで殺しはしていないわ。拷問とかだって必要最低限にしかしないもの」


「そうでございましたか。ですがそんな貴女様がミゼリア・グレアンドルから木剣で叩かれていたと聞かされた時は少々驚かされました」


「あら、私が怪我をするんじゃないかって意味かしら?」


「いえいえ、間違って木剣を破壊してしまうのではないか、という意味でございます。そのような細身の身体で木剣を破壊してしまったらあらぬ疑惑を掛けられかねないですからな」


「何言ってるのよ、失礼ね。私はか弱い乙女よ」


 とは言うものの、彼の言うことは事実で私も誤って木剣の方を破損してしまわないように注意するのが大変だった。


 私の魔力操作は肉体強化も容易であり、この一ヶ月間ミゼリアお義母様にいくら殴られようと、ぶたれようと、実は蚊ほどのダメージすら負っていない。衝撃が来る箇所の局部を鋼の如く高質化する魔力コントロールなど、この私にかかれば造作もない。


 彼女らの前ではわざと大袈裟に出血させてみせたり、アザにして見せていただけにすぎなかった。

 当然、その血やアザもただの魔力で作った模様に過ぎないのだけれど。


「今後のグレアンドル家は大変でしょう。ドウェイン卿はおそらく責任追及は免れないでしょうな」


「当然ね。まあドウェイン様は才能溢れる方だからきっとうまく立て直すでしょ。ミゼリアお義母様は離婚されちゃうだろうけどね」


「ミゼリア・グレアンドルは少々やりすぎました。当然の報いですな」


「……ふふ。それにしてもあの時、婚約破棄の件で集まったダイニングの時のミゼリアお義母様の狼狽えっぷり、たまらなかったわねえ」


「そうだな、俺もアレには少し笑いそうになった」


「「!?」」


 突然の声に私とケヴィンは背後へ振り向く。


「月が綺麗な夜だな、ルフェルミア」


 そこに佇んでいたのはまさかの元婚約者――。



「ヴァ、ヴァン……グレアンドル……ッ!?」



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