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ひかりのしごと  作者: 遠野なつめ
第四章
26/30

持久戦

ヘッドライトの光の先へ、ゆるやかな傾斜を滑り降りた。

時おり傾きが急になったりカーブしたりして、先の暗闇へと続いていた。


青白い内壁は、透明な液体で薄く濡れていた。熱や匂いはなく、千裕の身体を濡らすこともない。

体液に直に触れると害があるため、液体を遮る素材で身を包んでいたのだ。


やがて、両足が地についた。

千裕と草平は、四方を巨人の組織で囲われた空間に降り立った。人間でいえば胃にあたる位置だが、体内のつくりがそもそも違っているから、人間の臓器に当てはめる意味はあまりない。


2人で来たのは正解だった。人数が少ないように思えても、刃渡りの長いブレードを扱うから、これ以上多いとかえって動きづらくて危ないのだ。


上のほうにライトを向けると、先ほど滑り降りてきた道が口を開けていた。途中で曲がっていたから、来た道の様子はすでに見えない。


外に出る方法は、厚さ数メートルの内壁を切り裂いて核を壊すか、投光器の出力を強めて外から光を浴びせてもらうかの2択になった。今回の任務はシャドウを根絶することだから、目指すのは前者。


自分たちの足元も巨人の組織でできているが、装備を背負って立っていても、足が深く沈むことはなかった。みっしりと締まった肉を想起させる。


内壁に青みが濃い一角があって、そこを狙えば核に行き着く。

無事に着いたことを無線で伝えると、2人はシールド越しに目で合図をして、ブレードの安全装置を外した。内壁に向かって横並びに立つ。


刃先で内壁をなぞると、透明な液体がにじんだ。

切った端から組織が再生して、早送りのように切り口が塞がっていく。


生物の理を無視した光景だった。


刃を一旦引いてから、深くまで突き刺した。

柄を握ったまま手を止める。どの向きに力をかけようか考えたところで、刃を咥え込むように周囲の組織が再生し始めた。軽く揺すってみたが抜けそうにない。


──やばい。


何度か反動をつけて後ろに引くと、急に抵抗がなくなってずるりと抜けた。柄を両手で掴んだまま、千裕の身体が後ろに揺れる。


抜いたところから透明な液体が吹き出して、防護服の胸から腹を濡らした。フェイスシールドに細かな滴が飛ぶ。人間だったら致命傷だろうと思える量だった。


あと少し遅かったら自分の武器を失うところだった。


「腕を入れるな。持ってかれる」


千裕がそう口にすると、草平は頷いた。


厚い組織を切断して核に行き着くには、組織の再生速度を超さないといけない。

そのために、刺した後に刃を素早く引いて、同じところをより深く切っていく。早く、深く、絶え間なく。


気が遠くなるような話だった。自分だって傷の治りは早いほうだし、生体兵器と呼ばれたりもしたが、この途方もない壁を前にしては大差ないものだ。


外側のメンバーから無線を受けて、手短なやり取りをした。

無線機で話をするときは、送信ボタンを押している側だけが話し手になる。ブレードを握ったままでは話せないので、一人が内壁に向かい、もう一人が後ろに控えて無線機を扱うことになった。


千裕はブレードを押し込みながら、草平が無線で話すのを背後に聞いた。


「こちら1班。状況変わらず。そちらは」

「切っても再生する。核に到達するまで時間がかかりそう」

「再生にも限りがある。投光器で光を当てると巨人にも影響するから、再生速度もいずれ落ちるだろう。持久戦を覚悟」

「了解」


外からの監視を担う班によると、巨人に動きや変化はないらしい。

無線のやり取りが終わると、草平は手早く交代して前に行き、千裕は後ろに下がった。ペースを保つために、これからは交互に休憩することになった。


何度目かの交代で、千裕が下がったときのこと。

千裕は立ったままで休んでいた。装備を身につけたまま座ると次に立ちあがるのが大変だし、足元を流れる液体が増えていって、腰を下ろす気になれない。草平もそれは同じようで、座って休もうとはしなかった。


切り裂く速さと再生の早さが拮抗していて、任務の初めからその様子が変わらない。

厚い組織はそのままで、足元の水溜まりだけが、彼らの戦いを示していた。


背中に汗が伝うのを感じる。今すぐ曇ったシールドを外して外の空気を吸いたかった。


変化のなさにしびれを切らした千裕は、悪態をついて内壁を足で蹴った。


「あー、くそ、きりがない!」


内壁を蹴った音は吸収されて、自分の声だけが耳に残った。


草平は振り返ることなく、手を止めないまま「落ち着け」と返した。千裕はいくぶん頭を冷やして、草平の後ろ姿を見やった。


確かに、内壁を蹴ったぐらいで巨人にダメージが行くとも思えないし、それよりは静かに体力を温存するほうがいいだろう。


無線の「再生にも限りがある」という話が事実なら、今の自分たちは巨人の再生能力をじわじわ削っていることになる。決して無駄ではないと自分を納得させた。


幸い、ブレードは液体に濡れていたが、切れ味が鈍る様子はない。おとなしく待機して、次の番が来たらさっきより深くまで切ってやる、と決めた。


そのとき、内壁が傾いた。

何が起きたのか考えるより先に、嫌な浮遊感が来た。

叩きつけるような衝撃とともに、天地が入れ替わる。


「こちら1班。巨人が動き出した。周囲の光源を破壊。応答せよ」


何時の方向で被害を確認、安否の報告を待つ、と雑音混じりの無線が入った。


どっちが上なのかも分からない中、草平のブレードの切っ先が千裕に向かう。内壁のうねりに巻き込まれて、2人はもつれるように転がっていた。

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