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第30話 夢を見ている間はニートじゃない

 俺はあの編集が言う通り、ラグビーの漫画を描いて出した。

 だが、それも、


 ――うーん。なんか分かりづらいんだよねー。そもそも防具で顔隠れているから、漫画として面白くないよねー。


 とか言い出して却下された。

 また面白い漫画描いてきてよ、とアドバイスらしいアドバイスもなく言ってきたので、俺は見切りを付けた。


 とにかく色んな出版社に原稿を出してみたのだが、どこもいい返事は貰えなかった。

 ただ一つの出版社を除いては。


「うん、面白いね、これ。連載出してみようか!!」

「ほ、本当ですか!?」


 俺は思わず立ち上がって喜びの声を上げた。


 俺は昔から周りよりかは絵が上手いという自負があった。

 周りからも褒められた。

 勉強やスポーツが出来なくたって、小学校低学年の時に、ポケットに入りそうなモンスターな絵が描ければ周りに人が集まった。


 でも、いつの間にか俺の周りからは人がいなくなっていた。

 絵を描くなんて子どものすることだと言われた。

 でも、俺には絵を描くことしか能がなかったから、一人になっても絵を描き続けた。

 だから上達した。


 俺の絵はどんどん上手になって、学校の美術の時間はいつも先生に褒められていた。

 漫画を読みながら、プロなんてこんなもん、俺の方が絵は上手いと鼻で笑っていた。


 でも、俺は中々プロになれなくて焦っていた。


「天音さん。ちょっと、周りの目がありますから」

「す、すいません……」


 待合室には他の漫画家志望の人もいて、ポカンと見ている人もいた。

 恥ずかしくなって、俺は顔を熱くなるのを感じながら座る。


 もう、プライドなんて何処にもなかった。

 俺は第一志望である出版からどんどんグレードを下げて行って、きっと一般人だったらその存在を知らないような出版社に漫画を持ち込んだ。


 本当だったら週刊少年誌で鮮烈デビューするのが目標だったが、そんなこといっている場合じゃなくなった。


 早く、早くデビューしなきゃ。

 俺はニートじゃない。

 漫画を目指している間は、漫画家志望なんだ。


 でも、収入がないから早く漫画家にならなくちゃ。

 実家で親からのプレッシャーもキツいのだ。

 早くプロにならなきゃ。


「とてもいいと思います。ですが、ちょっと直して欲しいところがあるんですよ」

「は、はい……」

「まずはキャラの名前が平凡すぎます。それに、キャラの見せ方も悪いです。できれば駒をぶち抜いて全身を出すようにしてもらえませんか? あと吹き出しも古いですね。もう少し最近の漫画を読んで勉強してもらっていいですか? あと、時系列がバラバラなんですが、これ直して貰えませんか?」

「え、えっと……」


 少しの修正と言われたが、思ったよりも矢継ぎ早の言葉だった。

 頭の回転が鈍いのを感じる。


「でも、この時系列がバラバラなのがいいんです。オムニバス形式で、最後に読者がアッと驚くような仕掛けがありまして……」

「そういうの読者は求めてないんです。読者が求めているのは読みやすい漫画なんです。驚くような漫画じゃないんです」

「そ、そうですか……」


 俺だったらそういう漫画が読みたいんだけど、とは言えなかった。

 ようやく掴んだチャンスなのだ。

 これを逃す手はない。


「直します。絶対に、直して見せます」

「何度か打ち合わせしましょう。そしたら賞に出してみましょう。絶対に大賞取れますよ」

「は、はい!!」


 大賞は50万程度だったかな?

 子どもの頃は大金だと思っていたけど、原稿を描くのに半年はかかるのだ。

 そう考えると、あまりにも賞金が少ない。


 本当に才能のある奴は、学生時代に親の金がある奴か、会社員勤めで貯金がある奴が漫画家になるんだと思った。

 実際、他の漫画家志望の人間を観ると、みんな若かった。


 待合室で観る他の漫画家志望の連中はみんな学生ばかりだったのだ。


 現実が見れていない二十歳越えの馬鹿は俺ぐらいなものだった。


 でも。もう漫画家志望奴等とはおさらばだ。

 俺はプロの漫画家になるんだ。


「これからよろしくお願いします!!」


 それから俺は、コンクールで大賞を取る為の漫画を新しく描いた。


 だけど、苦労して描いた漫画は、箸にも棒にも掛からなかった。



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