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第10話 ツルギ王子とプチ炎上


「キラリが炎上ってどういうことですか?」

「これよ」


 スマホを見せられて、ある程度の事情は把握した。


『なんで王子がこんなブスと?』

『こどおじ荒れてて草。自家発電しても可能性は感じないで欲しい』

『男ってなんでいつもこんなぶりっ子好きになるの? ツルギ王子には幻滅した』

『たかだか同じ弁当買っていただけだろ。まだ慌てるような時間じゃない』

『キラリを擁護している信者頭悪すぎ。どう考えてもキラリが人気のツルギ王子に近づいているだけ。これも売名行為の一種』

『ツルギ王子は女とっかえひっかえしているよ。こいついっつも配信で他の女の話してるじゃん。女Vtuberとコラボもたくさんしているし』


 とか、今回の炎上しそうな騒動に色々と勝手な事を書き込んでいるようだ。


「キラリと、ウチの男性Vtuberである『聖上ツルギ』こと『ツルギ王子』が匂わせツイートしたんじゃないかって話題になっているの」


 問題となっているのはニ件のツイート。

 ツルギ王子とキラリの写真付きのツイートだ。

 どちらも日付が違うが、似たような構図の写真となっている。


 どちらもお弁当を食べた感想のツイートで、美味しかったと書いてある。

 平凡で取るに足らない日常を切り取った写真となっている。

 それに関して俺は特に思うことはなかったが、これが匂わせツイートになっているのか?


「匂わせってどこが?」

「同じ出前を取っているし、同じ机で同じ椅子だってことで二人は付き合ってるんじゃないかって言われているの」

「なるほど……」


 匂わせツイートっていうのは、近年芸能人の間でも問題視されている。

 付き合う報告をしていない有名な男女が、付き合っているアピールを遠回しにする行為、または付き合っているのがバレてしまうことだ。


 人気商売で一番の地雷は交際関係。

 誰かと付き合っていることがバレると、写真集が大量にフリマサイトに登録されたり、過激ツイートがSNSに投下されたりする。

 今ではかなりマイルドになったが、昔は交際がバレただけでとんでもない炎上の仕方をして、干された人間が多くいた。

 今でも内容によっては干される可能性がある。


「ツルギ王子っていう人は人気なんですよね」


 ツルギ王子っていう人の実写の方の顔を見たけど、イケメンだと思う。

 色白で線が細くて、化粧までしている。

 ファッションセンスも悪くなく、何より若い。

 普通にその姿のままでも人気出そうだ。

 Vtuberをやってる意味が分からないぐらいだった。

 口を隠しているけど、たらこ唇でそこだけ残念とかそういうオチなのかな。


「キラリより人気ね。だからキラリが悪い。キラリがツルギ王子を誑かしたって言われているわ。今は精々数百リツイートされているだけだけど、もっと拡散されてもおかしくないわね」


 まずいな。

 こういう時は事実確認をせずに、憶測だけで情報が拡散されてしまう。

 どれだけ迅速に対応できるかによって問題が解決できるか決まる。

 タイムリミットは今から24時間ぐらいだろう。


「付き合っている訳ではないんですよね?」

「さあ」

「さあ、って」

「勿論、ウチは恋愛禁止にしているけど、所属タレントにだって人権があるんだから24時間ずっと監視している訳にはいかないもの。裏で交際していても私達には分からないわ」

「それはそうですけど……」


 高校生に恋愛するなって言うのが無理な話だろうしな。

 その癖30歳とかになったら行き遅れのババアとか、早く結婚しろとか言われるんだから人気商売の人は大変だ。


「ただ、このツイートに関しては杞憂ね」

「え?」

「だってこの弁当は私達が出前で頼んだものだし、机と椅子も会議室のでしょう?」

「ほ、本当ですね」


 長机とパイプ椅子だし、普通に考えればそんなものか。

 自宅の家の家具が同じとか、皿の柄が同じとかだったらもっと騒いでもいいが、これぐらいでプチ炎上か。


 いや、だからこそまだこれだけで済んでいるのか。

 本当だったらもっと炎上してもおかしくないってことか。


「……そもそもなんで実写の姿がバレているんですか? 二人とも」

「二人とも元々実写の配信者で、声でバレているのよ。所属してからは実写時代の動画は削除してもらったんだけど、誰かが動画を持っていたみたいね」

「なるほど……」


 公式ホームページの募集要項にも、配信者であることが条件としてあったな。

 未経験者は最初からお断りっていうことだ。

 最初の方は未体験者でもメンバーに入れていたかも知れないけど、これだけVtuberが人気になってくるとある程度の選別も必要ってことだな。


 長時間配信ができる体力があるのか。

 そして話が面白いのか。

 それを見極める為にも、最初から配信者であることが条件とされるのは当たり前なのかも知れない。


 ただ、

「こうして実写がバレてしまっている状態で、二人ともこういうツイートをしたのは迂闊でしたね」

「そうね。でも今ここでいきなりSNSのアカウントを削除したら余計に炎上するわ。投稿した写真を消すのもいいことなのか悪い事なのか判断がつきかねるわね」

「う、うーん」


 削除した方が炎上騒動っていうのは鎮火しやすい。

 ただ削除したことで何か後ろめたいことがあったのでは?

 と余計に炎上するケースもある。

 なので、正解不正解がないのが炎上騒動だ。


「とりあえず、誤解ということをまず説明して、それでもこのプチ炎上騒動が収まらなかったら対処するってことでいいですか?」

「そうね。それがいいわ」

「とりあえず、否定は本人にさせますか?」

「ええ。もしも私達がツイートしたことが後で露見したらそれこそ炎上騒動になるから。ただ内容は私達で観てからツイートするかどうかは決めないと」

「そうですね」


 炎上騒動の初回は対処さえ間違っていなければ、すぐに鎮火するイメージだ。

 今回はそこまで大事じゃないし、そのことを分かっている人も、SNSを観ると伝わって来た。

 ただ、この謝罪が適当なものだったり、反省していないことが伝わると、問題が大きくなる。

 この謝罪のやり方で本当に炎上するかどうかが決まる。


「ツルギ王子っていう方は?」

「今日はオフだったから今ここに来るように呼び出しているわ」


 ツルギ王子っていう人も災難だったな。

 ツイートの時間を観ると、ツルギ王子がツイートした後に、ウチのキラリがツイートしている。

 キラリが余計なツイートをしなければこんな事態にならなかったっていう見方もある。

 休みの日にわざわざ事務所まで呼び出しか。

 大変だな。


「……説明しても?」

「ええ。私も一緒に説明するわ」


 ドアを指差してキラリに事の顛末を告げる承諾を得た。

 俺は覚悟を決めてドアを開いた。



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