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第1話 ハローワークで求職活動


「天音太一さん、でしたね」


 ハローワークの女職員さんは資料から目を離さない。

 応募先の条件と俺の職歴等を照らし合わせているみたいだ。


「はい」

「年齢は……」

「30歳です」

「ギリギリですね。はい、条件は大丈夫そうなのでお電話します。少々お待ちください」

「はい」


 ギリギリ、か。

 そうだよな。

 同級生は昇格していたり、結婚して子どもができていたりする。

 無職になって転職活動しているのは周りで俺だけだ。


「はい、はい。正社員ではないみたいですけど、はい……」


 俺が就職したい企業の人と職員さんが話している言葉が聴こえてきて、ドキリとする。

 やっぱり、正社員の経験がないのに、30歳から正社員を目指すのは無謀なのだろうか。

 じゃないと、わざわざ訊いたりしないよな。

 俺、何してんだろ、この年齢までちゃんとした職に就かないで。

 あまりにも情けな過ぎて、同窓会には行けないし、まともに連絡が取れる友達もいない。

 勿論、彼女も。

 俺の人生何の潤いも希望もない。


「はい、分かりました。お願いします」


 職員さんが企業の人との電話を終えると、こちらに向き直る。


「天音さん」

「はい」

「まずは書類選考があるみたいなので、このハローワークの紹介状と、写真付きの履歴書をここの住所まで送ってもらえますか?」

「……は、はい!!」


 書類選考をしてくれるだけでもありがたいと思ってしまった自分が情けない。

 年齢制限がある就職先もあるのだ。

 履歴書をしっかり書かないと。


「それじゃあ、お疲れさまでした」

「はい」

「次の方どうぞ」


 後ろを見るといつの間にか列が出来ていた。

 ハローワークってあんまり来たことないけど、列ができるぐらい求職者っているんだな。

 俺と同じような人がいて少し安心した。


「わっ」


 ハローワークから出ようとすると、制服姿の女の子とぶつかりそうになる。


「すいません」

「こちらこそ、すいません」


 コミュ障の俺はまともに顔を合わせることもできずに、適当に謝る。

 すれ違い様に振り返ると、香水の匂いと風に揺れる綺麗な髪が眩しく見えた。


 女子高生か。

 あまりにもキラキラしている。

 若いっていうだけでそれは財産だ。

 俺はもうただのおっさんだ。

 何の肩書きもない。


 今の女子高生はいい所に就職するか、大学に行くかして輝かしい人生を送るのだろう。

 それに比べたら俺なんて……。


「いや、誰かと比べても意味なんて――」


 俺は頭をフルフルとさせると、ハローワークから出る。

 桜が散っている。

 例年より暑い日が続いたせいだろう。

 短い春は桜が散ると共に終わりのようだった。


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