第7話 リア充の定義
「そんじゃ出席取るぞ~、朝倉~」
「はーい」
「朝比奈~」
「はぁ~い」
高校二年生の頃の担任が、クラスメイトたちの出席を取っていく。
俺もかつての自分の席に座り、名前を呼ばれるのを待っていた。
さて……鈴を救うとは意気込んだものの、具体的にどうするべきなのか。
鈴を救う――つまりは鈴が自殺する未来を回避しなければならない。
未来に関して注意を促せば鈴の記憶に反映される。
それは10年後に会ったことで判明したが、結末を変えるには至らなかった。
注意するだけじゃ足りないってことだ。
そもそも将来彼女の記憶に残っても、この時代の鈴に影響を与えなければ意味がない。
よほど意識を変えるか行動を変えさせないと、同じ経路を辿ってしまうのは目に見えている。
本人にとって未来なんてわからないものだからな。
一体どうすれば……。
「芦川~……芦川~?」
「へ? は、はい!」
名前を呼ばれたことに気付かず、慌てて返事する俺。
担任は呆れた様子で、
「おおよかった、起きてたか。目を開けたまま眠ってるのかと思ったぞ」
「す、すみません……」
直後にクラス内に湧き上がる笑い。
恥ずかしい……27歳にもなって10年前の同級生に笑われるとは……。
いやまあ、今の俺も身体は17歳だけどさ。
「なにぼ~っとしてんだよ。可愛い幼馴染のことでも考えてたのかぁ?」
隣の席の男子が話しかけてくる。
コイツの名前は貝塚剛。
一応俺の友人で、学生の頃は割とよく話す仲だった。
もっとも俺とは違いオタク趣味のないパンピーだったので、他愛ない世間話をするくらいの仲だったが。
「うるせぇ、そんなんじゃねーよ」
「嘘つけ、今のは女のこと考えてた顔だぜ」
「四六時中女のこと考えてるのはお前の方だろーが」
「健全な男子高校生なら暇さえあれば夢想するのが普通だろ? 主に性的な意味で」
「やっぱお前の方が女のこと考えてんじゃねーか。悪いが俺は二次元に生きる漢なんで」
「寂しい男だねぇ、そんなだから非リア?だっけ? そう呼ばれんじゃねーの?」
「リア充は氏ね。死ねじゃなくて氏ね」
リア充氏すべし。慈悲はない。
つーか久々に聞いたぞ、リア充って言葉。
10年後にはもう完全に死語と化してるよな……。
その代わりに陽キャとかパリピって言葉が使われてるけど、下手すりゃ現代の高校生はリア充って言葉すら知らんだろ……。
いやもう懐かし過ぎて涙が――
そんなことを思っていた時、ふと俺は閃く。
……そういえば前回のタイムリープ時に、オタクを卒業しろと鈴に言った。
つまりそれって、言い換えればリア充になれってことにもなるか。
なにを以てリア充と呼ぶのかも色々あるだろうが、高校生の頃の俺が考えていた定義は二つ。
一つ、サブカルチャーやネットに依存していないこと。
二つ、異性・同性の友人が多くいる、あるいは恋人がいること。
この二つの条件を満たしていれば、俺はそいつをリア充だと見做していた……気がする。
今になって見返してみても所詮モテない男の僻みだが、未来の陽キャやパリピも大体同じ定義をあてはめられるのだから間違ってはいないだろう。
であれば――いっそのこと、鈴をリア充にしてしまえばいいのではないか?
サブカルチャーから興味をなくさせ、友人を増やし、恋人を作らせる……。
オタクであることが死因になるなら、オタクでなければいい。
それに恋人ができれば、いずれ鈴を自殺に追い込む婚約者と出会わなくて済むかもしれない。
そうだ、それがいい!
……俺個人の気持ちとしては、大事なオタク仲間を失うのは寂しくはある。
だがそれで鈴が救われるなら、そっちの方が何億倍も大事だ。
だいたい、社会人になってからは一人寂しくオタクをやってたんだ。
元の生活に戻るだけさ。
よし、そうと決まれば――
その日から、俺は早速行動を開始することにした。
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