第6話 もう一度10年前へ
「嘘だろ……どうして……」
――鈴が自殺した。
母が電話越しに報告してきたのは、あの時と同じ内容だった。
「あんなに一人で抱え込むなって言ったのに……どうしてだよ鈴……」
なにも変わらなかった。
なにも変えられなかった。
鈴は自ら命を絶つ道を選び、俺はそれを止められなかった。
ちゃんと彼女と会ったのに。
ちゃんと警告したのに。
まるでSF映画でも見せられてる気分だ。
変わらない未来、運命とかいう結末。
こんなのが現実だなんて冗談だろ。
くそったれ、また――また時間を巻き戻せたら――
また10年前に戻れたら――
「……そういえば、俺どうやって10年前に戻ったんだっけ……? 確か最初は車に轢かれて……こっちに戻ってくる時はケータイの――」
――そうだ。
確か10年前には存在しなかったはずの、現在の俺の電話番号。
それがガラケーの中に登録されてた。
興味本位でそこに掛けたら、気が付いた時にはこっちに意識が戻って来てたんだ。
だったら……!
俺は急ぎ、スマホの中に登録された連絡先一覧を見る。
そこには――――あった。
俺の名前、俺が過去に使っていた電話番号。
自分自身の番号なんてこれまで登録したことはない。
昔使っていた番号ともなれば尚更だ。
「もしかしたら……」
淡い期待を抱き、震える指で過去の自分へ電話を掛ける。
プルルル……という呼び出し音。
そして、誰かがガチャリと出た瞬間――
※
「おはよー」
「おはよー。ねえ、昨日の爆笑ブルーカーペット観た?」
「見た見た! ジェイマンすっごい面白かったよね!」
俺の前を歩く女子高生二人が、そんな会話をしている。
着ている制服は俺の母校である星房高校の高校のブレザー。
俺は数秒ほどぼーっとしつつ、辺りを見回す。
今いる場所は母校の校門前。
多くの学生たちが校舎へと向かって行っており、時間帯は朝の登校時間であることがわかる。
下に目を向けると、着ている自分の服も母校の男子用ブレザー。
ポケットに入っていたガラケーを開くと――20○○年の表示。
「戻ってこれたんだ……また……」
間違いない、ここは10年前の高校時代。
俺はまたタイムリープできたんだ。
そう思ったのも束の間、
「おっはよー東次! 昨日始まったAngela Beats!観た!? 観たよね!? ライブの作画ホントヌルヌルだったし、曲すっごくよくない!? もう絶対CD買うわ!」
背後から走ってきて、興奮気味に肩を組んでくる女子が一人。
「あ~もう、今季はらくおん!の二期も始まるのに! アタシに何枚CD買わせる気なのかって! またバイトのシフト増やさなきゃ……!」
「鈴…………すずぅ~……っ!」
彼女の元気そうな顔を見た瞬間、俺の涙腺は崩壊してしまった。
両目からドバっと涙が溢れる。
「う、うわぁ!? なに、なんで泣いてんの!?」
「よかった……まだ生きてる……まだ鈴が生きてるよ……!」
「勝手に殺すな! アタシを死んでる世界戦線にでも入れるつもり!? あ、でもゆかっぺと一緒になれるならそれもアリか……!?」
オタク特有の思考回路で自問自答を始める鈴。
やっぱり俺の知ってる鈴だ。
彼女を見た瞬間、俺の心は安堵で満たされる。
それと同時に――俺は決意する。
絶対に――なんとしてでも鈴を救ってみせる。
鈴の未来を、俺が変えてやるんだと。