第3話 お主○○をラノベと申すか
俺と鈴は帰路につくため、校舎を出る。
校舎の雰囲気、校庭から聞こえてくる運動部の掛け声、田舎特有の澄んだ空気。
なにもかもあの時と同じだ。
そりゃそうだろうな、俺は当時に戻ってきただけなんだから。
まだ現状を受け入れ切れていない俺を余所に、鈴は楽しそうにアニメの話題を続ける。
「でさでさ、やっぱ今季の覇権はバカと試験と召喚術師だと思うワケよ。アレめっちゃ面白いよね。それに藤吉郎が可愛すぎてなにかに目覚めそう……。東次はどう思う!?」
キラキラとした目で語る鈴。
うわ、また懐かしいタイトルが出たな……。
確かにアレめちゃくちゃ面白くて、昔は俺も激ハマりしてたよ。
男の娘キャラの藤吉郎が最高で、もう俺ホモでもいいやとか言ってたわ。
えーっと、あの頃やってた作品だと……。
「そ、そうだな、俺もアレが覇権だと思うぞ。でもデュロロロ!!と刃語も忘れちゃいけないんじゃないか?」
「む、確かに。その二作は原作も読んだけど、やっぱ面白かった……」
「最近はラノベのアニメ化がヒット連発してるしな。デュロロロ!!は傑作、異論は認めない」
「ほう、お主刃語をラノベと申すか。よかろう、ならば戦争だ」
たわいもない会話で盛り上がる俺と鈴。
ああ……そうだよ、これが俺の日常だったんだ。
鈴と、趣味を同じくする幼馴染と趣味の話で盛り上がる。
この瞬間がただ本当に楽しかった。
これこそが俺の青春だったんだ。
……だから、この時は思ってもみなかったよ。
オタクであることが、いずれ鈴を死に追いやってしまうなんて。
「……」
「おん? どったのさ、東次?」
「なあ鈴、お前将来自分が大人になってもオタクでいると思うか?」
「そりゃーオタクだろうね? だってアニメ観るの止めらんないし、大事な生き甲斐だしさ。それに知っているかね東次くん、今時の女子はオタクを名乗らないと男子に振り向いてもらえないのだよ?」
「振り向いてもらいたいのかよ、お前」
確かにそんな時代もあったな。
合コンの席で「私オタクなんで」が女性たちの常套句になってるなんて、TVで紹介までされたことまであったっけ。
男で言えば、ヤンキーかじってる奴がアニメにハマってB系オタクなんて呼ばれたりもしたな。
なにもかも懐かしい。
だけどこんなオタクブームに染められて、いずれ鈴は後悔してしまうんだ。
過去に戻った俺が未来の鈴を救えるかなんてわからないけど……このままになんてしておけない。
「鈴……お前、オタク続けるのやめろ」
「は、はあぁ~? なにさ突然」
「いいから。お前がオタクを続けたら、お前自身が不幸になっちまうんだよ」
「んん? イミフですぞ? どうしてアタシが不幸になるのさ?」
「それは……」
……信じてもらえるだろうか?
いや、信じないよな普通は。
だって今俺の意識は10年後の俺で、鈴が自殺をすると知っているなんて。
もし逆に鈴が俺に同じことを言えば、まず俺は彼女の正気を疑う。
真実を言っても仕方ないか……。
「とにかくだ、鈴はオタクを卒業するべきなんだって! 今はまだいいけど、将来は……10年後とかは嫁の貰い手がいなくなるかもしれないだろ?」
「ふ~ん、東次ってばアタシが嫁に行けるか心配してくれてんだ」
「うっせえ! ニヤニヤすんな! なんでもいいけど、俺が言ったことは忘れないでくれよ、絶対に!」
「はいは~い、努力しま~す。それじゃ東次、アタシばあちゃん家に寄ってくから、また明日ね」
そう言い残すと、鈴はY字路の分かれ道を右に走っていってしまった。
俺の実家がある場所とは反対の方向である。
「おい、鈴――!」
呼び止めようとする声も虚しく、すぐに彼女の後姿は見えなくなる。
俺は一瞬追いかけようとしたが、その直前ズボンのポケットから音楽が響く。
ポケットに手を入れてみると、俺が高校時代に使っていたガラケーが鳴ったようだ。
「うわ、なっつ……。そうだ、この頃iPhone出たばっかで買えなかったんだよな。時代を感じるわ……。アドレス帳も学校の知り合いのしかないし――って、あれ?」
興味本位で登録された連絡先一覧を開いた俺。
すると――本来あるべきはずのない連絡先が目に入った。
「これ、俺の新しい方の電話番号だ……。どうしてこの中に……?」
そこにあったのは、俺が社会人になってから変更した新しい電話番号。
上京してから携帯電話会社のゴタゴタをニュースで見て、なんか迷惑SMSも増えたし番号変えるか――と思って変更した番号である。
俺が27年間生きてきて自分の携番を変えたのは、この一回のみ。
つまり学生時代の俺の携帯に登録されているはずのない番号なのである。
なんでこれが……?
不思議に思った俺は、その番号にかけてみると――