第2話 そんな○○で大丈夫か?
「――――」
俺は瞬きをする。
あれ? ここどこだ?
俺、確か仕事が終わってアパートに帰ってて……。
だから今は夜だし、外にいるはずなんだけど――
「教室……?」
俺の眼前に広がる光景は、夕暮れ時の教室だった。
大きな黒板と均等に並べられた生徒の机。
間違いない。
ここは俺の母校、星房高校の教室だ。
それにこの雰囲気は――
「ねえ、ねえってば! 東次、聞いてる!?」
俺を呼ぶ少女の声。
俺は反射的に、声の主の方へ振り向く。
「どったの? 電話トースター(仮)使ったおきりんみたいな顔してるけど?」
「鈴…………栗原鈴……!」
そこには俺の幼馴染であり、オタク仲間でもある少女が机に座っていた。
それもあの頃の、夏服のブレザーを着た高校生の時と同じ姿で。
間違いない、鈴だ。
後頭部で結われた黒髪ポニーテールに、あまり日焼けしていない色白の肌。
クラス一の隠れ美少女と言われた可愛い系の顔つきと、低めの背丈。
なに一つ変わっていない、高校生時代の鈴がそこにはいた。
彼女の顔を見た瞬間思い出す。
母親からの電話で、鈴が自殺してしまったという話を。
「鈴……! お、お前生きてるのか!? 幽霊とかじゃないよな!?」
「はぁ? なに言ってんの? アタシを蘇りし者とでも呼ぶつもり? まあでもわかるよ~、ストーンズ・ゲートは一回見ると絶対影響受けちゃうよね」
うんうん、と笑いながら頷く鈴。
ストーンズ・ゲートって……俺が高校二年生の時にやってたアニメだぞ。
今でもたまに話題は聞くけど、流石に古くないか……?
そう思っていると、俺は自分自身の格好にも違和感があることに気が付いた。
鈴と同じで、高校時代に来ていた男子用夏服ブレザーを着ている。
こんなの実家の戸棚にしまわれて、もう虫の餌にでもなっているはずなのに……。
俺は困惑し、
「お、おい鈴! 鏡持ってるか!?」
「へ? そりゃアタシも女子だし、鏡くらい持ち歩いてるけど……」
「貸してくれ、頼む!」
「ほ、ほい……?」
鈴は鞄の中から折り畳み式の手鏡を取り出し、俺に手渡してくれる。
そして鏡で自分の顔を見た俺は、愕然とした。
そこに映ったのは、高校生のまだまだ若い頃の自分。
――若返ってる。
いや違う。
これはそういうのじゃない。
目の前に死んだはずの鈴もいるんだぞ。
これじゃ、これじゃまるで――
「な、なあ鈴……今年は何年だっけ……?」
「?? 20○○年だけど……」
20○○年――
それは俺が記憶している年より10年も前。
俺や鈴がまだ高校二年生だった年だ。
もう間違いない。
俺は――
「戻ってきたんだ……あの頃に……」
「……東次、さっきからどうしたの? おきりんみたいになったかと思えば、今度はガノー少佐みたいなこと言ってるし」
ああでもアレは〝帰ってきた!〟だっけか、と言葉を続ける鈴。
そうか、そうなのか。
どういうワケか、俺は10年前の高校時代にタイムトラベルしちまったってワケか。
いや、この場合はタイムリープって言った方が正確かもしれん。
状況は把握した。
それでも俺は動悸が収まらず、額から流れる冷や汗を隠せない。
「東次、なんか顔色悪いよ……? さっきから変なことばっか言ってるし……保健室行く?」
「い、いや、大丈夫だ。問題ない」
「ぷっ、つまりそれダメってこと? じゃあ改めて聞くけど、そんな顔色で大丈夫か?」
「……一番いいのを頼む」
「あはは! 平気そうだね、心配させないでよも~」
もう何年も前に使い古されたネタを聞くと、鈴は懐かしい笑顔を見せてくれた。