第一章 貴女と私で新しい世界へ 3
夢を、見た。
白い花が咲き乱れる神殿。
楽しそうに前を走っていく男の子。
私は少し遅れて追いかけていく。
これは‥私の夢?それとも‥‥
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『ちょっと、起きてー!かみさま起きてよー!!』
突如として頭に響き渡った騒がし‥いえ、可愛らしい声に驚き降りていた目蓋を一気に引き上げると、目に映ったのは一面の青だ。先ほど見た夢に当てられたのか、それが空であると認識するまで少し時間がかかった。
(アリアナ‥おはよう)
私が、声に出さず心の中で話しかけるとアリアナがほっとしたように
『あーやっと起きた!このまま目覚めなかったらどうしようかと思ってたのよ。もうゲームのシナリオ開始時間ギリギリだわ。
私はどうやらゲームのシナリオが開始したら、終了まで何の干渉も出来ないみたいなの。ただ、これから回る町の神殿でだけは話すことが出来るかもしれないわ。神殿に寄ったら祈りを捧げるついでにでも話しかけてみて。
ただ、声に出して話しかけると神官に変に思われるから心の中でね。』
と、一気に捲し立てた。
(そう‥。普段から話せないのはかなり不安だけど、神殿で話せるならとりあえず頑張ってみる)
『えぇ、あとはよろしく!そろそろウィルが迎えに来るはずよ。‥っと、もう来たみたい。
‥じゃあ、頑張ってね。』
最後の激励の声に少し真剣な色を残して、アリアナの声は途絶えた。
私の中のどこかにはいるんだろうな‥という気配はするが、今まで隣を歩いていたのに、急に何mも先に行ってしまったような‥漠然とした不安を感じる。
しっかりしなくちゃ、と頬を軽く叩いて寝転んでいた芝生から身体を起こすと、大好きなあの人が私の方に向かってくるところだった。
「アリアナー!!そろそろ出立式の時間だぞー!!」
‥‥‥ああ、もう感動で泣きそうだ。
何度も画面の中で見た、生え際から毛先にかけて色が薄くなっていくスカーレッドの髪。初期装備の皮の鎧に藍色の服、印象的な空色のマントをつけて、私の大好きな人がそこに立っている。
しかも、フルールファンタジアは20年前のゲームだからかなり画質は荒かったのだが、さすがに自分が中に入ると全然違う。最早生きている人間にしか見えなかった。HDリマスターも真っ青の解像度だ。
さっきエンディングで彼が死んだのをみたばかりだから、さらに涙が込み上げてきたけれど、私の口はしっかりアリアナとしての言葉を紡いでいた。
「ウィル!呼びに来てくれたのね、ありがとう!今行くわ」
さぁ、これから出立式を経て101回目の旅がはじまる。
‥いいえ、私自身としてははじめての‥世界を変えるための幻想曲。
この旅で私は‥‥
悲劇を喜劇に変えて見せる。