第三席・HOYA
「えー皆さん、ホヤって食べたことありますか?海の底で岩にくっついてる、何だかよくわからない生き物ですが、これがちょいと甘くって身が引き締まっていて結構美味いんですよ。海のパイナップルなんて呼ばれてますが、ペンパイナッポーアッポーなんとかとは関係なく…ってネタが古いですかね?今日はそんなホヤにちなんだお話です。
さて、時は近未来。とある研究所に勤める海底探索研究者の青年は、最新式の潜水艦と潜水服を与えられ、一人未知の海溝へと送り出され、孤独に息抜きにエロゲーなんぞをしながら今日も潜水服を纏ってぶらぶらと深海を漂っていました。周囲は日の光もろくに差さない暗黒の世界ですが、ヘッドライトで照らしたところ、白い柱のような岩が立ち並ぶ、奇妙な風景が現れました。
「なんだここは……気味が悪いな。とっとと潜水艦に帰って早く『淫乱サキュバス大戦ーサキュバス界を追放された俺様は母乳操術を使って人間や魔物達を支配して復讐するー』の続きをしないと……って何だあれは?」
なんと生命の欠片も感じられない死の世界に、白い人影のようなものが揺らめいているように見えたのです。
「なんか裸のすげー長髪美少女の上半身が地面から生えてるように見えるけど、気のせいか?女性に飢えて、エロゲーばっかしてたせいかなあ……潜水病は幻覚が見えるっていうし……それにしても良いおっぱい……」
「あら、人間の方?こんにちは」
「って喋ったよおい!?ここ水中なのにどーなってんの!?あんた裸で寒くないの!?」
「あっ、驚かしてすいません。貴方達が言うところの超音波を出して、貴方が聞こえるように調節して話しているんです。あと、人間じゃないので寒くありません」
「そうか、なるほど、イルカやクジラみたいなもんか……ってなんで超音波とか知ってんの!?あんた誰よ!?」
「だって貴方がしょっちゅう上の船から人間界の音をいっぱい流してくださるじゃないですか。毎日それを聞いているうちに人間の言葉を自然に覚えてしまったんです」
「へー、そういや毎日地上のテレビニュース見てたっけ……ってことは俺のやってたエロゲーの恥ずかしい音声まで聞かれてたってわけ!?うがあああああああ!」
「気にしなくて良いですよ。ちょっと催眠ものや母乳ものが好きなだけじゃないですか。獣姦とかじゃないんですし」
「やけに詳しいなおい!……って俺のせいか。で、本当にあんた誰なのよ!?」
「私ですか?残念ながら人間で言うところの個体名はありません。でも、強いて言うならHOYAとお呼びください。ホヤという生物が進化したものが私達のようですから」
「ホヤだって!?あんな海のパイナップルごときがこんな知能の高い人間のような姿に進化していたなんて……!」
「まあ、あまり知られてはいないでしょうね。何億年もの間、ここでひっそりと生きてきましたから」
「しかし、とても信じられない……」
「ほら、その証拠にパイナップルみたいなぷりんぷりんのおっぱいをしてるじゃありませんか」
「たとえホヤでも女の子がそんなこと言っちゃダメ!」
「フフフ、すいません。DTさんっぽいんでちょっとからかっちゃいました」
「こいつ……」
ってなわけで、その謎の生物HOYAと青年は親しくなり、毎日出会っては会話を交わすようになった。そして青年がわかったことは、どうやら彼女たちはホヤ同様に幼生の時は人魚のごとく自由に海中を泳ぎ回るが、ある程度成長すると、海底の岩に付着して根を下ろし、その場から動かなくなって、時折流れてくる生物の死体屑などを食べて暮らすということだった。
「へー、そりゃあなんとも楽チンだけど退屈な生活だな……」
「ですよねー、私も死ぬほど退屈だったんですけど、貴方のおかげでとても楽しかったです」
「おいおい、お別れみたいなこと言うなよ。まだ当分ここにいるって」
「いえ、もう時期私の意識はなくなります。ほら、ホヤの成体のことを思い出してください」
「成体っていったって、あいつらも海底にくっついて……ってまさか!」
「ええ、脳は無駄なエネルギーを大量に使うため、動いて獲物を獲る必要のなくなった成体は、脳を自ら消化し、吸収します。ここに立っている柱は皆……」
「うがああああああ!嫌だああああ!死なないでくれえええええ!」
「別に死ぬわけではありません。永遠に続く生へと生まれ変わるだけです。でも、その前に貴方に会えて良かった……さようなら……」
「うう……」
というわけで、その後数ヶ月経ち調査から戻った青年は、新種の生物を発見したことなんて一言も報告せず、水槽でホヤを育てるようになったとさ。えっ、彼は未だにDTのままかって?ほーや」




