閑話 小さな聖女と氏族長の娘。
◇◇◇
「やぁー。やぁー、とぅ。」
カランカララン。。。
「あー。クロエちゃん強いッスぅ。。」
「ちゃんと、この棒の軌道を読むのですよ。っと言うか、最近ヴィーって残念エルフの口調ですわ。あのお方の口調は、余り良く無いのですのよ?」
「そうなんスか?」
「あ、ほら。気を付けないとあんな残念なお方になります。」
今、シャトー・エスカリエの屋上テラスで、棒術のお稽古をしている二人は、ミセリコルディアが思わず聖女にして仕舞ったクロエと砂漠の民、今は無いカリュー氏族の族長の娘ヴィクトリア。
最近また師匠であるミセリコルディアが忙しくて稽古を付けて貰えていないのだ。だから二人でお稽古中と言う訳だ。
お昼の後のこの時間に二人でやっている。
ヴィクトリアは、右足を欠損したのだが、ミセリの聖なる力で再生した足のリハビリも兼ねているのだ。
だから、未だ足を引き摺るように歩くことがある。
それでも頑張れているのは、同い年のクロエの支えが大きい。
そんなクロエも今はお貴族様、クロエ・ノエミ・ド・サジェスドゥクッワーと言う名になった。『黒パンとチーズ亭』と言う食堂の一人娘であるのだが、当人立っての希望で、後ろ楯を申し入れたサジェスドゥクッワー公爵家の養女となったのであった。
因みに、実の父母は健在だ。
では、ヴィクトリアはどうする。今はお城でお世話になって居るけど、何れはどこかへ行かなければ、と訊けば、真っ赤なお顔で言うのである。
「ベルナール子爵様のお嫁さんになる。」
と言う。
それを訊いたアデルハイト、残念エルフは、「あーんな口の悪い男のどこに惚れる要素があるッスかぁ?」と、どの口が言いますか?と思わずツッコミをしなければならないのにも拘わらず。
「優しいの。」と言ってまた真っ赤っか。
「やぁー、やぁー。」
「やぁー、やぁー。」
「やぁー、やぁー。」
「やぁー、やぁー!」
「はい。素振りもお仕舞い。終わりにしようヴィー。私もう聖女のお仕事に戻るね。ヴィーは?」
「私、牧場に居たい。もうしこし。」
「………そう、じゃあ寒くなったらお城戻んなよー。じゃあね。」
ヴィクトリアの生活は駱駝と羊や牛を追っている『遊牧民』と言うやつだった。帝国は寒い。でもお城にこんなにたくさんの羊や牛が居るけど、どの牛も見たことの無い色をしていて、似ているのにやっぱり違う。そう思い知らされる。
「寂しいなぁ。」
と古ノルド語、東方語で呟く。後ろから同じ言語で、
「じゃあ、楽しいことでも考えて見ようか?」
と声を掛けられた。振り向くとベルナール様。
何故か瞳に溜まった涙が溢れて、ベルナールのぬ胸に顔を埋めて声を上げて泣きじゃくって仕舞う。
「お父様もお母様もナディも皆、皆、私を置いて行っちゃった。私一人ぼっちで、私一人残ったってどう仕様も無いのに、私皆と一緒が良かった。死んじゃったらダメだって言うけど、一人でいるよりよっぽどいいわ。ナディ連れてってナディは私の所為で死んじゃったのよね。ベルナール様あぅぅぅああうあああぁぁぁーーー。。。」
「どうしやした、シュミネ子爵様。」
「悪いんだが、この子の部屋開けといて貰えるようにローズ様に伝えて欲しいんだ。」
「お安いご用で。」
伝声管で早速ローズへ連絡を入れた農夫。
「ありがとう。」と言うとベルナールは、泣き疲れた幼い少女を抱え居室へと向かう。
一族を殺し尽くされ唯一残った氏族の娘。
「んんー、考えても実感も沸かないし、それに僕って一人になったらなったで楽?かもなー。親身になれ無いなぁごめんよ。」
本人が起きていたらどうすんだよコイツ。と言うことを平気で言っちゃうのがベルナールである。
部屋のベッドに横して、扉を閉めるベルナールは、「また来るね。」と言って出て行くのであった。
お布団の中で、「ベルナール様らしい言い方ね。何だか泣いたのバカみたい。」と、一人呟くのであった。
◇◇◇
「心配したわ。ベルナール様が、神殿に来て、ヴィーが泣き疲れて寝ちゃったから、後で様子見といてって仰るの。」
「もう大丈ふです。ベルナール様で泣いたから………。」
「何処がいいの。ベルナール様のぉ。」
「やっぱり、優しいところ……………」
んんー。と、首を曲げ、考えるクロエではあったのだが、クロエには解らなかった。